クラシオン

黒蝶

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『人形』

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好みがなんとなく分かっているネロさんはともかく、名前も知らない人形さんの心がほぐれそうな食べ物とは一体なんだろう。
作った人間がどんな思いをこめたのか、その後どんな出来事があって人形の命が造られたのかによって事情はだいぶ変わってくる。
「ネロさんと同じ料理をお出ししてもよろしいでしょうか?」
人形さんは無言で頷くと、すぐにネロさんのマントに身を隠してしまった。
「そんなに驚かなくても、この店の店員はみんないい人たちだよ。...今は彼しかいないけどね」
その一言にずきりと胸が痛む。
あの人に会いたいが、連絡手段さえ分からない。
そんなことを考えていても仕方がないのだが、ふとしたときに姿を思い浮かべてしまう。
あの人ならどうするだろう、もしこの場にあの人がいれば...接客するとき、いつだって頭を片隅にはそんな思案が詰まっている。
「おまたせいたしました。パンプキンスープです」
「ありがとう。僕、この店のが1番好きなんだ」
「ありがとうございます」
すると、人形さんはスープに顔をつっこみそうになる。
それを見たネロさんが慌てた様子で止めた。
「これは僕の分だよ。君のはもうすぐくるから待って」
「お客様はこちらをどうぞ」
少し小さめの皿にこぼさないようにスープを流しいれ、そちらを人形さんの前に置く。
「こちらをお使いください」
「アりがトウ、ござイます」
小さめの木製のスプーンを渡すと、ようやく人形さんが喋った。
「君の声、そんな感じなんだね」
「初めテ話しマシタ」
「話しづらそうなのは、これのせいかな...」
球体関節をよく見てみると、そこには髪の毛が絡まっていた。
「...よし、取れた。話してみて」
「ありがとうございます。このまま死ぬのかと思っていたので、とても助かりました」
「行くところがないなら僕のところにおいで。君は...名前がないと不便だな」
「ナナさん、というのは如何でしょうか」
「私の製造番号ですか?E00-73だから...」
「申し訳ありません。不快な思いをさせてしまったのなら、」
「そうではありません。ありがとうございます」
人形さん...ナナさんは嬉しそうにしている、ような気がする。
「君がいいなら僕と一緒にきて。その前に、他のお客が来るのを見たいんだけど、もう少しここで待たせてもらってもいい?」
「勿論です」
ネロさんは話し上手だ。
そういうところが羨ましかったりする。
『どんな人にだって、何かひとつ長所は存在するんだよ。ただ、同時に短所にもなり得るけどね』
あの人はそう言っていたが、自分にそんなものがあるような気がしない。
デザートを運び終えほっとひと息ついていると、からんころんとドアが開かれた。
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