クラシオン

黒蝶

文字の大きさ
上 下
158 / 216

本当の想い

しおりを挟む
「私、色々なものが大嫌いなんです。はじめから間違っていたのか、それともこれでいいのかは分かりません。
できることなら、ずっと笑って誤魔化しておきたいとは思っています」
少女はまた笑ったままそう告げる。
何故そこまでして笑顔を崩さないのか、少し不思議に思った。
飲み物を用意して手渡すと、彼女は一礼してそれを少し飲んでから話を続ける。
「不機嫌そうに見えると、こそこそ言われて鬱陶しいんです。自分たちは何もしないのに...いつも文句ばかり言っている人間が嫌いです」
人間が嫌いだという話をしているはずなのに、彼女はまだ笑顔をはりつけたままだ。
「文句があるなら自分たちでやればいいのに、それは面倒くさいらしいです。
毎日ねちねち言ってくる親も、げたげた笑って誰かを見下す姿勢ばかり見せる生徒たちも嫌いです。
でも、使えない私が1番大嫌いです」
彼女はまた隠している。
というより、自らの感情の表し方が分からなくなってきているのかもしれない。
それにしても...ここまで人間を嫌うということは、相当傷つけられた経験がありそうだ。
「どうして自分のことが嫌いなんですか?」
「成績も運動神経も容姿も、何もかも人より劣っているからです。
相手が見下してくるということはそういうことでしょう?」
それは要するに、自分に対する価値観を見いだせなくなっているということだろうか。
「...誰かと比べずにはいられない、ということですか?」
質問に質問で返すのは失礼なような気もしたが、これ以外の方法なんて分からない。
「みんな同じじゃないといけないって...困っている人の力になりたいって思ったら、誰かの分まで私が頑張るしかないんです。
傷つけられるのが私だけになったら、その先傷つけられるはずだった誰かを助けられるはずでしょ?私には、それくらいの価値しかないから...」
独りを徹底的に追いこみ、心をずたずたに引き裂く。
本当に残念な集団心理だと絶望しそうになる。
『俺はただ、お客様を笑顔にできればそれでいい。
だけど、お客様を本当の笑顔にするのはとても大変なんだ。綺麗事かもしれないけど、みんな違ってみんないいと思いたい』
その考え方は本当にすごいと思う。
だからあの人の考え方を参考にこの場所を護って、もう1度会いたいと考えている。
彼女は周りの人間のことも、彼女自身のこともよく思っていない。
ただひとつ言えるとするならこれだけだ。
「お客様は優しい方です。...ただ、やはりお客様の心の傷を癒してくれる相手が必要だと思います」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

桜が丘学園付属高等学校文芸部

刹那玻璃
ライト文芸
五月雨葉月さま主催の同人誌 innocence に掲載させていただいておりました作品と、番外編もございます。 よろしくお願いします。

もしもし、こちらは『居候屋』ですが?

産屋敷 九十九
ライト文芸
【広告】 『居候屋』 あなたの家に居候しにいきます! 独り身で寂しいヒト、いろいろ相談にのってほしいヒト、いかがですか? 一泊 二千九百五十一円から! 電話番号: 29451-29451 二十四時間営業! ※決していかがわしいお店ではありません ※いかがわしいサービス提供の強要はお断りします

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

すみません、妻です

まんまるムーン
ライト文芸
 結婚した友達が言うには、結婚したら稼ぎは妻に持っていかれるし、夫に対してはお小遣いと称して月何万円かを恵んでもらうようになるらしい。そして挙句の果てには、嫁と子供と、場合によっては舅、姑、時に小姑まで、よってかかって夫の敵となり痛めつけるという。ホラーか? 俺は生涯独身でいようと心に決めていた。個人経営の司法書士事務所も、他人がいる煩わしさを避けるために従業員は雇わないようにしていた。なのに、なのに、ある日おふくろが持ってきた見合いのせいで、俺の人生の歯車は狂っていった。ああ誰か! 俺の平穏なシングルライフを取り戻してくれ~! 結婚したくない男と奇行癖を持つ女のラブコメディー。 ※小説家になろうでも連載しています。 ※本作はすでに最後まで書き終えているので、安心してご覧になれます。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

君の脚になるから

夏目くちびる
ライト文芸
 強盗の罪のより、四年の刑期を経て少年刑務所から出所した黒木楓は焦っていた。何故なら、どれだけ探しても仕事が決まらず、とうとう所持金も底を尽き掛けていたからだ。  そんな状況で路上生活を続けていた彼だったが、ある日保護観察者であるシェアハウスのオーナーに一つの仕事を紹介される。その仕事とは、彼とは縁などあるはずもない程の大豪邸で介護士をする事だった。  物の試しにと面接を受けに行った彼だったが、そこにいたのは五体満足で健康そのものの男と、静かで美人な使用人の女。どこに介護が必要なのかと不思議に思った彼だったが、それでも『誰かにとっての何者か』になる事を求めて真剣に面接を受けたのだった。  翌日、その家の使用人に呼び出されて再び赴いてみると、そこで待っていたのは老人ではなく16歳の若い女。それも、半身不随で下半身が一切動かなくなってしまった不幸な少女であった。  名前は東条奏。半身不随になったことで自分の殻に閉じこもってしまった彼女は、見上げることしか出来ない健常な体を羨み、妬んだ。そのせいで、人を傷つけて突き放してしまう捻じ曲がった性格の持ち主となってしまっていたのだ。  しかし、楓は思った。もしも奏が幸せになる事が出来たのならば、その頃には自分が『誰かにとっての何者か』になれているのではないかと。  そして、楓が動き出した時、二人の世界は再び時を刻み始めた。青春を失った者は、青春を失おうとしている者の為に、心からの献身を持って尽くす事を決めたのだった。  元囚人とお嬢様、交わらない筈の二人が重なった時、新しい風が吹く。切なくて優しい青春ストーリー、開幕。

僕の彼女はアイツの親友

みつ光男
ライト文芸
~僕は今日も授業中に 全く椅子をずらすことができない、 居眠りしたくても 少し後ろにすら移動させてもらえないんだ~ とある新設校で退屈な1年目を過ごした ごくフツーの高校生、高村コウ。 高校2年の新学期が始まってから常に コウの近くの席にいるのは 一言も口を聞いてくれない塩対応女子の煌子 彼女がコウに近づいた真の目的とは? そしてある日の些細な出来事をきっかけに 少しずつ二人の距離が縮まるのだが 煌子の秘められた悪夢のような過去が再び幕を開けた時 二人の想いと裏腹にその距離が再び離れてゆく。 そして煌子を取り巻く二人の親友、 コウに仄かな思いを寄せる美月の想いは? 遠巻きに二人を見守る由里は果たして…どちらに? 恋愛と友情の狭間で揺れ動く 不器用な男女の恋の結末は 果たして何処へ向かうのやら?

きみに駆ける

美和優希
ライト文芸
走ることを辞めた私の前に現れたのは、美術室で絵を描く美少年でした。 初回公開*2019.05.17(他サイト) アルファポリスでの公開日*2021.04.30

処理中です...