クラシオン

黒蝶

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秘匿

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「家にも帰れそうにありませんか?」
訊いていいのか分からないことだったが、とにかく力になる為には情報を集めるしかない。
「僕、独り暮らしなんです。父親のことは知らないし、母親はずっと入院していて...叔母の家で暮らしたりもしてたけど、反りが合わなくて無理でした」
話を聞くだけでも彼は苦労人だ。
仮に母親と仲がいいとしても、迷惑をかけたくないと考えているのだろう。
そうなると誰も話す相手がおらず、さらに孤独を深めてしまっているように思える。
「人を頼るのは怖いですか?」
「誰もこんなことに巻きこまれたくないでしょう?...僕だって巻きこみたくない」
彼の気持ちが分からないわけではない。
だが、このままでは心が壊れてしまうだろう。
「...1番信頼できる相手にだけ話すのは?」
「だから、」
「分かってる。君が迷惑をかけたくないと思っていることも承知のうえで、それは無理かな?」
少年は複雑な表情を浮かべ、真っ直ぐにこちらを見つめている。
その瞳には疲弊の色が見え隠れしていた。
「もしこのままの状態が続けば、君はきっと壊れてしまう。...誰かが孤独に押し潰されるのを見るのは嫌なんだ」
寂しさがつもり続けて、限界を迎えた人を知っている。
最終的に自ら未来を絶つ選択をした人も、身分を偽り暮らしている人も知っていた。
どの生き方も否定するつもりはない。
ただ、折角なら生きられるだけ生きてみてもいいのではないかと思ってしまうのだ。
「店長さんは、そういう人を見たことがあるんですか?」
「あります。この店には、様々な事情を抱えたお客様がいらっしゃいますから」
少年は思い詰めたような表情で俯いたが、やがて何かを決意したのか顔をあげる。
「...僕は、まだどうしたらいいのか分かりません。それに、ここから出た瞬間から鬼ごっこ状態になるかも...。
だから、もう少しだけここにいてもいいですか?」
「勿論です。お客様に寄り添うのが、この店と俺の役目ですから」
砂時計を確認してみても、砂はほんの少ししか落ちていない。
...つまり、彼が言ったとおりになる可能性があるということだ。
「何か手伝いたいです」
「お客様にそんなことをさせるわけにはいかないよ。でも、そうだな...新商品の味見をしてみてほしいな」
一瞬何も思い浮かばなかったものの、あの人に頼まれたことがあったのを思い出す。
『独りで食べても不安だから、お願い』
目の前の少年に遠慮させない為にできるのは、こんな方法しかない。
...あの人も同じ気持ちだったのだろうか。
「それでは、こちらをどうぞ」
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