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その理由は
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たしかに体は肥大しているが、どうやら正体を掴むことはできたようだ。
「...お客様、恐らくこちらの方はあなたにお礼がしたかったのだと思います」
「お礼?」
「左手にあたる部分に傘を持っているでしょう?それは、あなたがあげたものなのではありませんか?」
「多分間違いないと思います。気づかなかった...」
その傘からは水滴が零れはじめ、その巨大な男性はこちらを見つめてくる。
「あなたが最近怪我や病気をしなかったのは、この方が悪いものを食べていたからです。
ただ、それが原因でこれだけ大きくなってしまったようですが...」
すると彼女は突然頭を下げた。
「勝手に怖がってごめんなさい!それが1番傷つくことだって、私はちゃんと知っていたのに...」
「傘、お礼、何か...」
「お客様、こちらのハーブティーを飲むことは可能ですか?」
彼自身が悪いものなら、これを飲めば一撃で消し飛んでしまう。
だが、もしそうではないならきっと吸収したものの浄化だけで済むはずだ。
「カラーという白い花が入ったハーブティーで、とても美味しいですよ」
「いだだぎ、まず...」
握力でカップを破壊してしまうのではないかと一瞬頭を過ったが、その心配は不要だったらしい。
しばらく見ていると、巨大な体が今にも爆発しそうになっている。
「お客様はこちらへどうぞ。お客様はそのままお待ちください」
店の片づけが大変になりそうだが、そんなことを言ってはいられない。
ばん、と大きな音がして、その中心から男性が現れる。
「...おふたりとも、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫です」
「俺も、平気です」
ふたりが見つめあっていることに気づき、そのままテーブルに戻って話していてほしいと少女に伝える。
...どんなものがいいだろうか。
「お待たせしました」
「沢山花が咲いたケーキ...!すごく綺麗ですね」
「ありがとうございます」
それからすぐテーブルを離れると、ぎこちないながらも楽しんでいるような声が聞こえた。
「あの...傘、本当に嬉しかったです」
「私にはあれくらいしか思いつかなくて...。でも、役に立てたならよかった」
ふたりの楽しげな会話はしばらく続いていた。
そうこうしているうちに、砂がどんどん落ちていく。
「店長さん、ありがとうございました。私はしばらく彼と過ごしてみようと思います」
「まさか元に戻れるとは思っていなかったので...本当にありがとうございました」
「お手伝いできてよかったです。またいつでもお越しください。...ありがとうございました」
粉塵の影響で少しだけ傷になった手首を隠しながら、ただふたりの背中に一礼する。
掃除をしていると懐かしい言葉を思い出した。
『──も見えるんだね。俺独りじゃなかったんだな...ちょっと安心したよ』
...俺だって、あなたが側にいてくれたから安心できたんです。
「...お客様、恐らくこちらの方はあなたにお礼がしたかったのだと思います」
「お礼?」
「左手にあたる部分に傘を持っているでしょう?それは、あなたがあげたものなのではありませんか?」
「多分間違いないと思います。気づかなかった...」
その傘からは水滴が零れはじめ、その巨大な男性はこちらを見つめてくる。
「あなたが最近怪我や病気をしなかったのは、この方が悪いものを食べていたからです。
ただ、それが原因でこれだけ大きくなってしまったようですが...」
すると彼女は突然頭を下げた。
「勝手に怖がってごめんなさい!それが1番傷つくことだって、私はちゃんと知っていたのに...」
「傘、お礼、何か...」
「お客様、こちらのハーブティーを飲むことは可能ですか?」
彼自身が悪いものなら、これを飲めば一撃で消し飛んでしまう。
だが、もしそうではないならきっと吸収したものの浄化だけで済むはずだ。
「カラーという白い花が入ったハーブティーで、とても美味しいですよ」
「いだだぎ、まず...」
握力でカップを破壊してしまうのではないかと一瞬頭を過ったが、その心配は不要だったらしい。
しばらく見ていると、巨大な体が今にも爆発しそうになっている。
「お客様はこちらへどうぞ。お客様はそのままお待ちください」
店の片づけが大変になりそうだが、そんなことを言ってはいられない。
ばん、と大きな音がして、その中心から男性が現れる。
「...おふたりとも、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫です」
「俺も、平気です」
ふたりが見つめあっていることに気づき、そのままテーブルに戻って話していてほしいと少女に伝える。
...どんなものがいいだろうか。
「お待たせしました」
「沢山花が咲いたケーキ...!すごく綺麗ですね」
「ありがとうございます」
それからすぐテーブルを離れると、ぎこちないながらも楽しんでいるような声が聞こえた。
「あの...傘、本当に嬉しかったです」
「私にはあれくらいしか思いつかなくて...。でも、役に立てたならよかった」
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粉塵の影響で少しだけ傷になった手首を隠しながら、ただふたりの背中に一礼する。
掃除をしていると懐かしい言葉を思い出した。
『──も見えるんだね。俺独りじゃなかったんだな...ちょっと安心したよ』
...俺だって、あなたが側にいてくれたから安心できたんです。
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