クラシオン

黒蝶

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追ってくるもの

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「...彼女もお客様です」
「野蛮な人間かどうかは見た目では分からないのよ。羽をもいだりする恐ろしい人間もいますから。
申し訳ないけれど、いまひとつ信用できないの」
シルキーには彼女なりの事情がある。
それを咎めることはこの場にいる誰にもできない。
「それに、無視したままでは前に進めないと思うけれど。《クラシオン》やそこにいるマスターにだけは迷惑をかけないでくださいね、人間」
少女はぽかんと口を開けたまま、妖精が去るのを見送る。
「失礼いたしました。...お客様、どうか気を悪くされないでください」
「いいえ、そうじゃなくて...嬉しいなって思ったんです」
「嬉しい?」
「あの妖精さん、人間が嫌いだって言いながらアドバイスしてくれたから」
たしかにそのとおりかもしれない。
もし本当に嫌いなら、いちいちあんな言葉を残していかなくてもいいはずだ。
にも関わらず、向き合えと助言を残して去っていった。
「その、よく分からないものに追いかけられるようになったきっかけに覚えはありませんか?」
「そういえば、男性が困っていたので傘をあげました。次の日は熱を出したけど...」
そこまで話した少女はあ、と声をあげる。
「そういえば、あれからずっと怪我をしてない...。その前にも怖いものに追いかけられたことがあったんですけど、最近はあのよく分からないもの以外に追いかけられたことがありません」
相手をよく見て何を訴えているのか見極める、あの人がいつも言っていたことだ。
『──は見た目で判断するようなタイプには見えないけど、なかにはどうしても見た目がとんでもないものに思えてしまう場合がある。
それでも、一方の話だけでは見えてこない。両方が抱える真実を見つけることが大切なんだよ』
「...その、追いかけてくる何かと話をすることは可能でしょうか?」
「多分、私がこのお店から出たら追いかけてくると思います。
でも、話しかけたことはないんです。だからちゃんと相手に伝わるかどうか...」
少女からすれば、追いかけてきたそれはただ怖いものだろう。
だが、客観的に見ることができれば多少は違った見方ができるかもしれない。
「俺がその人と話をしてみます。もしかしたら駄目かもしれないけど、分かりあえる可能性はあるでしょう?」
「お願いしても、いいんですか?」
「勿論です。お任せください」
悔やむならできることを全てやり尽くしてからにしよう。
そう決意してカフェのドアを開けた。
「もしよろしければ、こちらでお話ししませんか?」
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