クラシオン

黒蝶

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「動物、ですか?」
「君は猫が好きなんじゃない?」
「どうして分かったんですか?」
「見ていてなんとなく分かったんだ」
少年が持っている鞄からはみ出ているのは、おやつのときにあげるクッキーのようなものだ。
それに、キーホルダーや筆箱も猫だらけで、無類の猫好きなのだろうと考えた。
...外れていたらどうしようかと思ったが、彼の反応からして間違っていなかったようだ。
「俺は、動物が好きで...それで、その、将来は動物たちと関われる仕事につきたいと思っています。
できるだけ人とは関わりたくないけど、動物たちとなら楽しいかなって...」
他の人間と関わらないなんて閉じた世界だと、頭ごなしに否定する人間もいるだろう。
だが、目の前の希望に満ちた笑顔を見ても同じことが言えるだろうか。
「君は優しいからきっとできるよ」
「...ありがとう、ございます」
朝食を綺麗に食べ終えたところで、彼に問い掛けてみる。
「実は最近、このあたりに怪我をした黒猫がよくくるんだけど...もしよかったら相手してもらえないかな?」
「え、あ、俺...できる、でしょうか?」
「できるかどうかより、やってみたいかどうかが大切なんじゃないかな」
「...やってみたい、です」
丁度そのとき、タイミングよく黒猫がやってきた。
「今日は天気もいいし、よければテラスで相手してあげて」
「はい」
手当て道具はあるものの、時々やってきてはすぐどこかへ行ってしまうその猫をどうにかしてやることはできなかった。
だが、彼ならどうだろう。
動物に対する強い愛情があれば、想いが伝わるかもしれない。
「...こんにちは。俺が持ってるのはこういうものしかないんだけど、よければどうぞ」
水しか飲まなかった猫は少年にすり寄っている。
そして、もらったおやつを食べはじめた。
「美味しい?よかった...」
この日1番の笑顔にほっとしていると、さらさらと音がした。
...砂がほとんど残っていない。
「あの、ありがとうございました。それで、えっと、」
「お代はいただいていません。ただ、もし君さえよければその子を連れていってもらえるとありがたい。
飼い猫じゃないみたいなんだけど、この店で飼うのは難しいんだ」
「分かりました。俺、今家で子猫2匹とカナリアと暮らしているんです。ひとり増えるくらいなら問題ありません」
「ありがとう。もし困ったらまた来てください。...ありがとうございました」
少年の腕に抱かれた猫は楽しそうに尻尾をふっている。
あのふたりの幸せを願いたい。
『──は動物に好かれやすいね。俺も君くらいなつかれたいな...ちょっと寂しいからね』
...俺はあなたがいてくれないと、寂しくて仕方がないんです。
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