クラシオン

黒蝶

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親友

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汐里と呼ばれた少女は菩薩のように微笑み、ただその場に佇んでいた。
「汐里、死んでなかったの?もしかして全部夢?」
「...いいえ。残念ながら汐里さんは亡くなられています」
「それじゃあ目の前にいる汐里は...」
「この店には、色々なお客様がいらっしゃいますから。
お客様の心が傷ついていれば、どんなお客様でもここに辿り着けるんです。たとえそれが、死者であったとしても」
琴音と呼ばれた少女は項垂れるように俯いてしまう。
生きていると歓喜していたのだから無理はない。
「...もし彼女があなたにとって本当に親友なら、彼女の話を聞いてください。
亡くなってから49日経ってもこちら側にいると、非常に危険なのです」
「危険...」
「彼女にとって、これが最後のチャンスなんです」
ここ数日、店の近くまで来ては踵を返している女性がいた。
...それが汐里さんだったのだ。
お金がないからと話す彼女に、いただいていないからと話して納得してもらうのに随分時間がかかってしまった。
「汐里さんは、ずっとあなたのことを待っていたんです」
「私を?」
首を縦にふった瞬間、汐里さんが話しはじめた。
「ねえ、琴音。そんなふうに自分を責めないで」
「だって私、汐里を...」
「これは私が望んだこと。そこに琴音を巻きこむことなんてできないでしょう?」
汐里さんは満足げに話している。
ふたりの会話から作る料理を決め、そのまま作業に入った。
どうするのが正解かなんて分からない。
だが、だからこそやってみることに意味がある。
「...お待たせいたしました」
「カルボナーラ、最期に食べたかったんだよね...。ありがとうございます、店長」
「あの、私の分までよかったんですか?」
「同じものを召し上がられた方が、きっと楽しい食事になりますから」
それこそ、汐里さんにとっては最期の晩餐になる。
ふたりが美味しいと思える料理でないと無意味だ。
琴音さんは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「私、ずっと空から見てる。だからね琴音。...琴音がやりたいことをちゃんとやりきって。
どれだけ離れていても、大切な親友だから」
「汐里...!」
琴音さんに必要だったのは、もしかすると側にいてくれる人だったのかもしれない。
空から光が降りてきた瞬間、汐里さんはもう行ってしまっていた。
「...まさか会えるとは思ってなかった。ずっと忘れないよ、汐里」
琴音さんは一礼して、そのまま山を降りていく。
しばらくは衝動的になることもないだろう。
お代にともらったキーチェーンを見つめながら、目を閉じてあの人の姿を思い描いた。
『相手が大切なら、その人を護る術を身につけた方がいい。でも何よりも大切なのは、一緒にいたい気持ちだよ』
...俺はあなたとずっと一緒にいたいのに、本当にどこへ行ってしまったんですか?
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