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好き嫌いとは違うもの
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「...僕、食べられないものがあるから誰とも食事に行かないようにしているんです。
食べられないってだけで、みんなに気を遣わせてしまうから」
それだけなら、別に一緒に食事をしても問題はないはずだ。
一緒にいて楽しいと思える相手の為なら、多少は気をつけてくれるだろう。
そう思っていると、少年から信じられない言葉が飛び出した。
「でも、理解がないんです。どうせ好き嫌いだろうとか言われて...家でもめんどくさいって言われました」
...アレルギーで1番苦しいのは本人だ。
それは決して好き嫌いなどという言葉では片づけられないものだし、毒を食べるのと同じということになる。
「理解してくれなくてもいいから、せめて黙っててくれないかなって...。
ご飯、自分のものだけ自分で作ることもあります」
「それは大変ですね...」
「僕がおかしいんでしょうか?だから色々なことをやられるのか」
彼のその呟きを聞き逃さなかった。
「...あまり思い出したくないとは思うんだけど、色々について説明してもらえないかな?」
「僕の分だけ食事がなくて、買い忘れたって言われたり...。あと、平然と蟹を食べた後の食器を洗わないといけなかったりして、手の皮が剥けたこともあります」
見せてくれたその指は洗い物をしている人のもので、しかもそれ以上に赤みがかってしまっている。
家庭でも分かってもらえず、学校でも理解が進まない。
そんな状況では、誰だって絶望するだろう。
『誰だって、食べられなくなりたくてなっている訳じゃない。
命に関わってくることだってあるんだ、お客様相手には充分気をつけるように』
あの人だってそのことを大切にしていた。
発疹や吐き気・嘔吐...最悪の場合、アナフィラキシーショックで死に至る。
本人が気をつけていても、周りが目を配ることができなければ結局猛毒を喰らうのと同じことだ。
「最近食事をするのも全然楽しくなくて...時々、ご飯を抜くこともあります」
そこまでさせてしまう人間の世界というものは恐ろしい。
少年の表情はずっと貼りつけたような笑顔だが、心でどれほどの涙を流しているのだろう。
ただ楽しく食事がしたい、それだけのことがこんなにも難しい。
「...君には色々な偏見がなさそうだし、もしよければここで相席して食事していきませんか?」
「でも、他にお客さんは、」
「...そろそろいらっしゃいますよ」
言い終わると同時に扉が開く。
「いらっしゃいませ、ふたりとも。お待ちしていました」
そこには、すっかり常連となったふたりが立っていた。
食べられないってだけで、みんなに気を遣わせてしまうから」
それだけなら、別に一緒に食事をしても問題はないはずだ。
一緒にいて楽しいと思える相手の為なら、多少は気をつけてくれるだろう。
そう思っていると、少年から信じられない言葉が飛び出した。
「でも、理解がないんです。どうせ好き嫌いだろうとか言われて...家でもめんどくさいって言われました」
...アレルギーで1番苦しいのは本人だ。
それは決して好き嫌いなどという言葉では片づけられないものだし、毒を食べるのと同じということになる。
「理解してくれなくてもいいから、せめて黙っててくれないかなって...。
ご飯、自分のものだけ自分で作ることもあります」
「それは大変ですね...」
「僕がおかしいんでしょうか?だから色々なことをやられるのか」
彼のその呟きを聞き逃さなかった。
「...あまり思い出したくないとは思うんだけど、色々について説明してもらえないかな?」
「僕の分だけ食事がなくて、買い忘れたって言われたり...。あと、平然と蟹を食べた後の食器を洗わないといけなかったりして、手の皮が剥けたこともあります」
見せてくれたその指は洗い物をしている人のもので、しかもそれ以上に赤みがかってしまっている。
家庭でも分かってもらえず、学校でも理解が進まない。
そんな状況では、誰だって絶望するだろう。
『誰だって、食べられなくなりたくてなっている訳じゃない。
命に関わってくることだってあるんだ、お客様相手には充分気をつけるように』
あの人だってそのことを大切にしていた。
発疹や吐き気・嘔吐...最悪の場合、アナフィラキシーショックで死に至る。
本人が気をつけていても、周りが目を配ることができなければ結局猛毒を喰らうのと同じことだ。
「最近食事をするのも全然楽しくなくて...時々、ご飯を抜くこともあります」
そこまでさせてしまう人間の世界というものは恐ろしい。
少年の表情はずっと貼りつけたような笑顔だが、心でどれほどの涙を流しているのだろう。
ただ楽しく食事がしたい、それだけのことがこんなにも難しい。
「...君には色々な偏見がなさそうだし、もしよければここで相席して食事していきませんか?」
「でも、他にお客さんは、」
「...そろそろいらっしゃいますよ」
言い終わると同時に扉が開く。
「いらっしゃいませ、ふたりとも。お待ちしていました」
そこには、すっかり常連となったふたりが立っていた。
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