クラシオン

黒蝶

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聞き上手

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「ハンバーグをお持ちしました」
「美味しそう...いただきます」
少女は一口ずつ噛みしめるように食べている。
やがて、少し食したところでフォークとナイフを置いた。
もしかすると、口に合わなかったのかもしれない。
「どうかされましたか?」
「...何も訊かずにいてくれるんですね。どうして独りになりたかったのか、とか」
「訊かれたくないこともあるだろうと思いましたので」
人にはそれぞれ、秘めた想いがあることを知っている。
そこに土足で入りこまれると混乱する人がいるのも事実だ。
「...それじゃあ、話してもいいですか?」
「勿論です」
「人と一緒にいたくないのは、ずっと聞き役に徹することになるからです。
私だって聞いてほしい話はあるのに、あの人たちはそのことをまるで理解していないみたいで...。
それとも、私が都合がいいと思われているだけなのかもしれません」
少女はずっと笑顔を作って話しているものの、やはりその背後に陰のようなものを感じる。
『人に見せないよう隠している、裏の顔というものがあるはずだ。
でも、それは強引にこじ開けるときっとお客様は心を開いてくれなくなってしまう。だから、そういうときはじっくり話を聞くんだ。
...相手に疲労が見えたら、一旦飲み物を淹れてくるのも手かもしれないね』
あの人から聞いていたことを思い出しながら、目の前の少女と向き合おうと然り気無く問い掛ける。
「...つまり、あなたは聞き上手すぎて辛くなってしまったんですね。
誰かに話そうにも、あなたに聞いてほしがるものだから話すことさえ難しい...」
「私が聞き上手かどうかはさておき、そのとおりです。私は誰かに、最後まで話を聞いてほしかった。
でもそれはきっと叶うことのないものなんです。人といるのが苦手で、最近はずっとこの子を持ち歩いています」
彼女は鞄からマスコットを取り出す。
数日前のお客様のことを思い出したものの、恐らくあの方とは違った意味で持っているのだろう。
「寂しいときにこの子を見ると、全部が大丈夫になってくれるような気がして...ごめんなさい、変ですよね」
「俺は変だとは思いません。あなたがその子といて少しでも穏やかに過ごせるのなら、それでいいと思うのです」
「あなたはとても優しい人なんですね」
そうなのだろうか。
根本的な解決策を見つけることはできず、結局この程度のおもてなしをすることしかできていない。
...それでも、優しいのだろうか。
今回だって、こんなことしか思いつかなかった。
「...俺に、あなたがしたかった話を聞かせてもらえませんか?」
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