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一夜の逢瀬
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「...こうしてお願いをするだけでも、だいぶ気分が明るくなるものなのですね」
「そう思っていただけたならよかったです」
一体どんな経緯で引き裂かれてしまったのか、或いは敢えて会わないようにしているのかは分からない。
だが、何もできないのはとてももどかしかった。
「力不足で申し訳ありません」
「いいえ。これだけで充分救われました」
天女は満足そうに微笑んでいるが、そこには寂しさが滲み出ている。
何か特別なことができるわけではない自分が嫌になるが、ポケットの砂時計を確認すると砂はまだまだゆっくりとしか落ちていない。
どうしたものかと考えていたとき、もう真夜中だというのにからんと扉が開かれた。
「いらっしゃいませ」
「あの、気づいたらここに迷いこんでいたんですけど...」
そこに立っていたのはひとりの男性で、手には救急箱を持っていた。
まさかと思ったが、天女の反応を見ていれば分かる。
「直樹、ですか?」
「あなたはあのときの...!」
そんな奇跡など簡単にはおこらないと思っていたのに、それが今目の前でおきている。
一体どんな気持ちでふたりに接するのが正解なのだろうか。
「飲み物をお持ちいたします」
一先ずその場を離れると、ふたりは抱きあって喜んでいた。
それから色々な話をしているのを聞きながら、いつものようにハーブティーを作ってすぐに運ぶ。
「お待たせいたしました。
俺は邪魔しませんので、好きなだけおふたりの時間をお楽しみくださいませ」
しばらく奥の部屋で仮眠をとろうと、そう声をかけてその場を離れる。
あのふたりはきっとお互い惹かれあっているのだろう。
それならば、ふたりきりにした方が積もる話もあるはずだ。
...どのくらい経っただろうか。
月が沈み始めた頃、天女が立ちあがる音がする。
慌ててカウンターへ戻ると、そこには今にも天に還ろうとしている彼女の姿があった。
「またいつかの夜に会いましょう。...店長、素敵な時間をありがとうございました」
きらきらとした光が彼女を包みこみ、そのまま幻のように消えてしまった。
「このお店のおかげで、彼女と話すことができました。ありがとうございます」
「俺は何もしていませんので。おふたりの笑顔が見られてよかったです」
男性の方も一礼して去っていく。
年に1度の奇跡なのか、それともこれから先も会い続けられるのか。
残念なことに、それはふたりにしか分からない。
食器を片づけていると、ふとした瞬間にあの人とのことを思い出す。
『この短冊に書けば、きっと願いが叶う。
──も好きなことを書いてつるしていいんだよ』
...俺の願いなんて、もう1度あなたと暮らすこと以外考えられません。
「そう思っていただけたならよかったです」
一体どんな経緯で引き裂かれてしまったのか、或いは敢えて会わないようにしているのかは分からない。
だが、何もできないのはとてももどかしかった。
「力不足で申し訳ありません」
「いいえ。これだけで充分救われました」
天女は満足そうに微笑んでいるが、そこには寂しさが滲み出ている。
何か特別なことができるわけではない自分が嫌になるが、ポケットの砂時計を確認すると砂はまだまだゆっくりとしか落ちていない。
どうしたものかと考えていたとき、もう真夜中だというのにからんと扉が開かれた。
「いらっしゃいませ」
「あの、気づいたらここに迷いこんでいたんですけど...」
そこに立っていたのはひとりの男性で、手には救急箱を持っていた。
まさかと思ったが、天女の反応を見ていれば分かる。
「直樹、ですか?」
「あなたはあのときの...!」
そんな奇跡など簡単にはおこらないと思っていたのに、それが今目の前でおきている。
一体どんな気持ちでふたりに接するのが正解なのだろうか。
「飲み物をお持ちいたします」
一先ずその場を離れると、ふたりは抱きあって喜んでいた。
それから色々な話をしているのを聞きながら、いつものようにハーブティーを作ってすぐに運ぶ。
「お待たせいたしました。
俺は邪魔しませんので、好きなだけおふたりの時間をお楽しみくださいませ」
しばらく奥の部屋で仮眠をとろうと、そう声をかけてその場を離れる。
あのふたりはきっとお互い惹かれあっているのだろう。
それならば、ふたりきりにした方が積もる話もあるはずだ。
...どのくらい経っただろうか。
月が沈み始めた頃、天女が立ちあがる音がする。
慌ててカウンターへ戻ると、そこには今にも天に還ろうとしている彼女の姿があった。
「またいつかの夜に会いましょう。...店長、素敵な時間をありがとうございました」
きらきらとした光が彼女を包みこみ、そのまま幻のように消えてしまった。
「このお店のおかげで、彼女と話すことができました。ありがとうございます」
「俺は何もしていませんので。おふたりの笑顔が見られてよかったです」
男性の方も一礼して去っていく。
年に1度の奇跡なのか、それともこれから先も会い続けられるのか。
残念なことに、それはふたりにしか分からない。
食器を片づけていると、ふとした瞬間にあの人とのことを思い出す。
『この短冊に書けば、きっと願いが叶う。
──も好きなことを書いてつるしていいんだよ』
...俺の願いなんて、もう1度あなたと暮らすこと以外考えられません。
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