クラシオン

黒蝶

文字の大きさ
上 下
58 / 216

恐怖の鬼ごっこ

しおりを挟む
「悪夢とは、一体どんなものを視るんですか?」
少女は少し話しづらそうにしながらもゆっくり言葉にしてくれる。
「毎日のように友人が追いかけてくるんです。
夢は少しずつ進んでいって、さっきはその友人にすごい形相で追いつかれました」
夢の中にいる人物が現実にいる...。
物凄い形相追いかけてくるのは、相手と喧嘩をしたからということだろうか。
「相手との関係について教えてください」
「そんなにぎすぎすしたものではありませんでした。寧ろ、私にとっては1番の親友で...。
でも、転落事故に遭って目を覚まさないんです」
「転落事故?」
少女は涙目になりながら話を続ける。
「捜査の結果は事故で落ちたんだって...もしかすると自殺かもしれないって言われていますが、私は違うと思っています。
...全国模試の成績は今回も2位、部活動だって美術部で出した全国コンクールで最優秀作品に選ばれていたし、人間関係で揉めるような子でもありません」
話を聞けば聞くほど、確かにただの事件で片づけられるものではなさそうだと判断した。
『夢に生きている人間が出てくるということは、何か伝えたいことがある場合が大半だ。
...そういう悪夢にも何か理由があるはずだよ』
あの人はそう話していた。
それを手本にさせてもらうと、これは恐らく相手が何かを伝えたがっているパターンだと仮定できる。
「彼女のことを恨みそうな相手はいませんでしたか?成績が近い人や、美術部のなかでどうしても1位がほしかったとか...なんでもいいんです」
少女は少し考えて、重い口を開いた。
「美術部についてはあんまり詳しくありません。成績が1番近いのは私です。
でも、私が1位になったりもしていい関係を築けていると思います」
「...それなら、交遊関係で思い当たる節があるのかな?」
「私は毎日欠かさずお見舞いに行っているんですけど、その度に会う人がいて...。
その人はいきなり私に好きですなんて言ってきたんですけど、その相手はあの子の恋人のはずなんです。...当然断りました」
状況は理解したが、この仮説を立証するには彼女にもう1度眠ってもらう必要がある。
そして、彼女の友人がすごい形相でやってくる理由も...何故転落事件がおこったのかも、全て白日のもとへ曝せるはずだ。
「流石に眠らないと寝不足で死んでしまいます。ただ、ひとりで眠るのは怖いならここで休んでいってください。
アロマを焚くから好きなのをどうぞ」
「柑橘系がいいです」
「それじゃあ、これでいいかな?」
「ありがとうございます」
少女の悪夢を終わらせる為、そのまま寝てもらうことにする。
彼女の発言に嘘がないなら、この夢の続きで何か掴めるはずだ。
もしも心が傷ついたまま意識を失っているのであれば、きっと力になれるだろう。
「...それではごゆっくり」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

管理機関プロメテウス広報室の事件簿

石動なつめ
キャラ文芸
吸血鬼と人間が共存する世界――という建前で、実際には吸血鬼が人間を支配する世の中。 これは吸血鬼嫌いの人間の少女と、どうしようもなくこじらせた人間嫌いの吸血鬼が、何とも不安定な平穏を守るために暗躍したりしなかったりするお話。 小説家になろう様、ノベルアップ+様にも掲載しています。

みんなみたいに上手に生きられない君へ

春音優月
ライト文芸
特別なことなんて何もいらないし、望まない。 みんなみたいに「普通」に生きていきたいだけなのに、私は、小さな頃からみんなみたいに上手に生きられないダメな人間だった。 どうしたら、みんなみたいに上手に生きられますか……? 一言でいい、嘘でもいい。 「がんばったね」 「大丈夫、そのままの君でいいんだよ」 誰かにそう言ってもらいたい、認めてもらいたいだけなのに。 私も、彼も、彼女も、それから君も、 みんなみたいに上手に生きられない。 「普通に生きる」って、簡単なようで、実はすごく難しいね。 2020.04.30〜2020.05.15 完結 どこにでもいる普通の高校生、であろうとする女の子と男の子の物語です。 絵:子兎。さま

ヨッシーのショートshort

ヨッシー@
ライト文芸
あなたの知らない、見たことのない、不思議な不思議なヨッシーワールドへ、ようこそ。

《 XX 》 ――性染色体XXの女が絶滅した世界で、唯一の女…― 【本編完結】※人物相関図を追加しました

竹比古
恋愛
 今から一六〇年前、有害宇宙線により発生した新種の癌が人々を襲い、性染色体〈XX〉から成る女は絶滅した。  男だけの世界となった地上で、唯一の女として、自らの出生の謎を探る十六夜司――。  わずか十九歳で日本屈指の大財閥、十六夜グループの総帥となり、幼い頃から主治医として側にいるドクター.刄(レン)と共に、失踪した父、十六夜秀隆の行方を追う。  司は一体、何者なのか。  司の側にいる男、ドクター.刄とは何者なのか。  失踪した十六夜秀隆は何をしていたのか。  柊の口から零れた《イースター》とは何を意味する言葉なのか。  謎ばかりが増え続ける。  そして、全てが明らかになった時……。  ※以前に他サイトで掲載していたものです。  ※一部性描写(必要描写です)があります。苦手な方はご注意ください。  ※表紙画:フリーイラストの加工です。

裏世界の蕀姫

黒蝶
恋愛
理不尽な家族の元から逃げ出した月見(つきみ)は、絶望の淵にたっていた。 食べるものもなく公園で倒れていたところを助けてくれたのは4人の男性たち。 家族に見つかるわけにはいかないと不安になる月見に、救いの手が差し伸べられる。 「大丈夫だよ。僕たち『カルテット』は簡単に人に話したりしないから」 彼等には秘密があった。 それは、俗に言う『裏社会』に関わる『カルテット』と呼ばれるチームメイトであるということ。 彼等の正体を知った瞬間、月見は自らの能力を使いながら共に蕀の道を突き進んでいくことになる。 「これから先、一緒にどこまでも堕ちてくれる?」 星空の下、彼と真実の愛を誓う。 ──さあ、あなたは誰の手をとりますか? ※念のためR-15指定にしてあります。

ネット何でも屋『ベリー』

もりのはし
ライト文芸
男子大学生・葵 一(あおい はじめ)は困ったことがあり、何でも屋『ベリー』に力を貸してほしいと依頼する。が、何でも屋『ベリー』は普通の何でも屋とはちょっと違っていて……。 ※第七話から男性同士のカップルが出ます。 *他サイトにて掲載・完結済。過去作。

140字小説~緑色のSS~

白水緑
ライト文芸
タイトル通り140文字(以内)のショートストーリーです。

わたしの中のノイズ~ある少女の欠落~

かみゅG
ライト文芸
 わたしの中にはノイズがある。  たとえば、両親と朝の挨拶を交わすとき、こう聴こえる。 「お■■さん、おかあさん、おはよう」 「おはよう、■■■」 「■■■、おはよう」  でも、日常生活で支障が出ることはほとんど無い。  ノイズとの付き合い方は慣れている。  そんなわたしは、今日から高校に通う。  これは欠落を抱えた少女の、ごくごく平穏で、でもちょっとだけ不思議な物語。

処理中です...