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食事
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「なんでも、いいのですか?」
「俺に作れるものなら、どんなものでも構いません」
普段であればこんなことは絶対に言わない。
お客様に合う料理を探すのも接客のうちだからだ。
だが、神様が何を食べるかなど想像できない。
作っても相手が食べられないものであれば無意味だ。
「どんなものがよろしいでしょうか?」
「...あんまり肉々しいのは得意じゃないんです。でも、お肉料理に近いものは食べたい...。
我儘で申し訳ありませんが、お願いできませんか?」
「かしこまりました」
それなら俺でもなんとかなりそうだ。
がっつりになりすぎず、だからといって味を落とさず...。
ただ、残念なことに一品しか思い浮かばなかった。
「食べられないものはありますか?」
「いいえ。あとのものはお任せします」
どうやら副菜を作る為に訊いたことがばれてしまったらしい。
紫陽花の髪飾りに、紫色のドレス...6月の神の格好は見慣れているつもりだったが、やはり見惚れてしまいそうになる。
「おまたせいたしました。豆腐ハンバーグです」
「豆腐というと、大豆を使ったものですか?」
「そのとおりです。あれを肉の代わりに使いました」
『神様相手には言葉遣いに気をつけること。あまりフランクに話しかけると、それだけで失礼になることもあるから...。
気難しい神様だと、1度の失敗で不敬罪に問われる』
あの人の言葉を思い出すと今の状況にぞっとせずにはいられないのだが、相手をよく知らずに物怖じしてしまうのは失礼だ。
6月の神は箸を持ち、おずおずと一口運んだ。
「...如何でしょうか?」
「美味しいです。こんなにふわふわなのは初めてかもしれません」
食感まで喜んでもらえてよかった。
食欲がないのならせめてそれだけでもなんとかしたいと思ってはいたが、狙いどおりになってくれたので少しだけ自信を持って他の品も出せそうだ。
「よろしければ、こちらのスープとサラダもお召し上がりください」
「...あなたは料理が上手なのですね」
「お褒めいただき光栄です」
言葉数は少なくても、コミュニケーションをとることもできた。
どれも庶民の味ばかりだが、気に入ってもらえたならそれでいい。
「...俺には、あなたの寂しさの全てを取り除くことは難しいかもしれません。
ですが、そうして笑ってくださるととても安心します」
「私が笑うと、ですか?」
「はい。折角花が咲いたような明るい笑顔なのですから、楽しいときは笑っていてほしいのです」
言葉を発した後、目の前の神様は瞳を潤ませる。
...まずい、何か失礼だっただろうか。
「俺に作れるものなら、どんなものでも構いません」
普段であればこんなことは絶対に言わない。
お客様に合う料理を探すのも接客のうちだからだ。
だが、神様が何を食べるかなど想像できない。
作っても相手が食べられないものであれば無意味だ。
「どんなものがよろしいでしょうか?」
「...あんまり肉々しいのは得意じゃないんです。でも、お肉料理に近いものは食べたい...。
我儘で申し訳ありませんが、お願いできませんか?」
「かしこまりました」
それなら俺でもなんとかなりそうだ。
がっつりになりすぎず、だからといって味を落とさず...。
ただ、残念なことに一品しか思い浮かばなかった。
「食べられないものはありますか?」
「いいえ。あとのものはお任せします」
どうやら副菜を作る為に訊いたことがばれてしまったらしい。
紫陽花の髪飾りに、紫色のドレス...6月の神の格好は見慣れているつもりだったが、やはり見惚れてしまいそうになる。
「おまたせいたしました。豆腐ハンバーグです」
「豆腐というと、大豆を使ったものですか?」
「そのとおりです。あれを肉の代わりに使いました」
『神様相手には言葉遣いに気をつけること。あまりフランクに話しかけると、それだけで失礼になることもあるから...。
気難しい神様だと、1度の失敗で不敬罪に問われる』
あの人の言葉を思い出すと今の状況にぞっとせずにはいられないのだが、相手をよく知らずに物怖じしてしまうのは失礼だ。
6月の神は箸を持ち、おずおずと一口運んだ。
「...如何でしょうか?」
「美味しいです。こんなにふわふわなのは初めてかもしれません」
食感まで喜んでもらえてよかった。
食欲がないのならせめてそれだけでもなんとかしたいと思ってはいたが、狙いどおりになってくれたので少しだけ自信を持って他の品も出せそうだ。
「よろしければ、こちらのスープとサラダもお召し上がりください」
「...あなたは料理が上手なのですね」
「お褒めいただき光栄です」
言葉数は少なくても、コミュニケーションをとることもできた。
どれも庶民の味ばかりだが、気に入ってもらえたならそれでいい。
「...俺には、あなたの寂しさの全てを取り除くことは難しいかもしれません。
ですが、そうして笑ってくださるととても安心します」
「私が笑うと、ですか?」
「はい。折角花が咲いたような明るい笑顔なのですから、楽しいときは笑っていてほしいのです」
言葉を発した後、目の前の神様は瞳を潤ませる。
...まずい、何か失礼だっただろうか。
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