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仲良
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「私はさっきも話したとおりです。...でも、ここにいる間だけはちゃんと自分でいられるからすごく楽しい」
「そう思ってもらえているならありがたいけど...」
「僕も特に変わりなく...。ただ、陽菜さんが言ってたことには同意です」
「ふたりともありがとう」
陽菜さんの事情も碧さんの事情も、決して簡単に解決できるものではない。
だが、この店を守っていく過程でこうして笑顔になってもらえるのは素直に嬉しかった。
自分では何もできないと思っていたのに、お客様が笑っている姿を見ていると負けていられないと思える。
...もしかすると、寧ろこちらの方が元気をもらっているのかもしれない。
「このアイスティーもすごく美味しいし、ここで出てくるお料理っていつもいいものばかりで安心します」
「確かに。自分で作るとこんな味にはならないと思う」
そうこうしている間にも、どんどん砂が落ちていくのを感じる。
このままでは時間を使いきってしまいそうだ。
「ふたりがふたりらしくあれれば、俺はそれだけで安心する」
「マスターは人のことばかりなんですね」
「マスターが1番優しいと思います」
ふたり揃って息をするように褒めてくれる。
ただ、そう言われても自覚がなかった。
あの人にもかけられたことがある言葉だが、その意味をあまり理解していない。
「...どうかおふたりでこのひとときをお楽しみくださいませ」
しばらく一緒に話をしようかとも思ったものの、残念ながらそう簡単にはいかないらしい。
急いで自室に入り、袋を開ける。
「...あとどのくらい持つか」
少なくなってきているそれを1錠だけ飲み、すぐにキッチンへと戻る。
幸いふたりとも話に夢中なのかこちらに気づいていない。
「暗くなるからそろそろ帰らないと」
「あの、僕も途中まで一緒に帰っていい...?」
「勿論。...マスター、今回のお代ってどんなものなら払えますか?」
「おふたりの笑顔を見られたので、それで充分です」
「この前もひとりで来たときにそう言ってもらったから...僕はこれを置いていきます」
それは、いつかのお代にもらった手作りらしいテディベアだった。
「ありがとう。この前の子もだけど、この子も隣に飾って大切にするね。
...またのお越しをお待ちしております」
連絡先を交換しようと話すふたりを見送り、そのまま椅子に腰かける。
疲れているのかなかなか動けず、そのまま眠ってしまいそうだ。
『お客様の笑顔がこの店を支えてくれる。
ただ、──は優しいからちょっと心配だな...。あんまり無理はしすぎないように』
...俺にとっては、あなたが1番優しかったですよ。
「そう思ってもらえているならありがたいけど...」
「僕も特に変わりなく...。ただ、陽菜さんが言ってたことには同意です」
「ふたりともありがとう」
陽菜さんの事情も碧さんの事情も、決して簡単に解決できるものではない。
だが、この店を守っていく過程でこうして笑顔になってもらえるのは素直に嬉しかった。
自分では何もできないと思っていたのに、お客様が笑っている姿を見ていると負けていられないと思える。
...もしかすると、寧ろこちらの方が元気をもらっているのかもしれない。
「このアイスティーもすごく美味しいし、ここで出てくるお料理っていつもいいものばかりで安心します」
「確かに。自分で作るとこんな味にはならないと思う」
そうこうしている間にも、どんどん砂が落ちていくのを感じる。
このままでは時間を使いきってしまいそうだ。
「ふたりがふたりらしくあれれば、俺はそれだけで安心する」
「マスターは人のことばかりなんですね」
「マスターが1番優しいと思います」
ふたり揃って息をするように褒めてくれる。
ただ、そう言われても自覚がなかった。
あの人にもかけられたことがある言葉だが、その意味をあまり理解していない。
「...どうかおふたりでこのひとときをお楽しみくださいませ」
しばらく一緒に話をしようかとも思ったものの、残念ながらそう簡単にはいかないらしい。
急いで自室に入り、袋を開ける。
「...あとどのくらい持つか」
少なくなってきているそれを1錠だけ飲み、すぐにキッチンへと戻る。
幸いふたりとも話に夢中なのかこちらに気づいていない。
「暗くなるからそろそろ帰らないと」
「あの、僕も途中まで一緒に帰っていい...?」
「勿論。...マスター、今回のお代ってどんなものなら払えますか?」
「おふたりの笑顔を見られたので、それで充分です」
「この前もひとりで来たときにそう言ってもらったから...僕はこれを置いていきます」
それは、いつかのお代にもらった手作りらしいテディベアだった。
「ありがとう。この前の子もだけど、この子も隣に飾って大切にするね。
...またのお越しをお待ちしております」
連絡先を交換しようと話すふたりを見送り、そのまま椅子に腰かける。
疲れているのかなかなか動けず、そのまま眠ってしまいそうだ。
『お客様の笑顔がこの店を支えてくれる。
ただ、──は優しいからちょっと心配だな...。あんまり無理はしすぎないように』
...俺にとっては、あなたが1番優しかったですよ。
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