44 / 216
特技
しおりを挟む
「自分を、責める?」
目の前の少女は、絶対に何かのせいという言い方をしなかった。
まるで、悪いのは全て病を患っている自分自身であるかのように話している。
誰かが悪いわけではない。
だが、周りへの恨み言ひとつ吐かないのは自分のことを責めているからではないだろうか。
「あなたはきっと優しい方なのでしょう。...誰も傷つけたくないから、というのも理解できます。
でも、たまには我儘になっていいと思う。全力疾走じゃなくても君にだってできることがあるはずだ」
「私に、できること...」
『誰にでもできることはあるんだって俺は信じてる。──にだって何か才能があるはずだよ』
あの人がかけてくれた言葉を思い出しながら、そのまま話を続ける。
「得意とまではいかなくても、これをやっていると楽しいというものはありませんか?たとえば...裁縫とか」
「どうしてそれを...」
「指先に沢山絆創膏があるのは、針がささったからではないかと想像したんです。あとは、さっき鞄の中をちらっと確認させてもらったときに入っているのが見えたから」
持ち運びに特化した小型の裁縫セットに、縫いかけの何か...ここまで揃えば間違いないだろう。
少し沈黙が続いたが、やがて少女は話しはじめた。
「私にできるのはそれくらいなんです。
...これ、一応組み立てるとティッシュケースになります」
そのできは今すぐ雑貨として店で売られていてもおかしくないほどで、目の前の少女の才能を実感した。
「君はできることをせいいっぱいやってる。もし俺がやったら、こんなふうに綺麗に縫うことはできないと思う。
是非ここで続きを縫っていって」
「...私、これで誰かの役に立てますか?」
「少なくとも、俺は今元気をもらったよ」
少女は涙を流しながら笑っている。
...本当に思ったことを率直に伝えたのがよかったらしい。
これだけのものがあるのに、何故彼女はあれだけ卑屈になっていたのだろう。
少し不思議に思いながら、ダージリンを淹れた。
「ありがとうございました」
彼女が縫い進めながら飲み終わる頃、砂時計の砂は全て落ちきっていた。
「あの、私、お金ってあんまり持ってないんですけど...」
「この店ではお金をもらってないんだ。ただ...もしよかったらそれをもらってもいいかな?」
それは、先程できあがったばかりのティッシュケースとコースターだ。
「こんなものでよければ...」
「ありがとう。俺にとっては価値あるものだよ。...あなたにはあなただけのやり方があるはずです。
どうか、やりたいことを見つけたら極めてください」
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました」
遠ざかる少女の背中に一礼して、そのまま片づけをはじめる。
『たとえーーーーーても、君はこんなに可能性に満ちている。だから...これは諦めなくていいんだよ、──』
...俺が諦めてばかりなことを、どうして見抜いたんですか?
目の前の少女は、絶対に何かのせいという言い方をしなかった。
まるで、悪いのは全て病を患っている自分自身であるかのように話している。
誰かが悪いわけではない。
だが、周りへの恨み言ひとつ吐かないのは自分のことを責めているからではないだろうか。
「あなたはきっと優しい方なのでしょう。...誰も傷つけたくないから、というのも理解できます。
でも、たまには我儘になっていいと思う。全力疾走じゃなくても君にだってできることがあるはずだ」
「私に、できること...」
『誰にでもできることはあるんだって俺は信じてる。──にだって何か才能があるはずだよ』
あの人がかけてくれた言葉を思い出しながら、そのまま話を続ける。
「得意とまではいかなくても、これをやっていると楽しいというものはありませんか?たとえば...裁縫とか」
「どうしてそれを...」
「指先に沢山絆創膏があるのは、針がささったからではないかと想像したんです。あとは、さっき鞄の中をちらっと確認させてもらったときに入っているのが見えたから」
持ち運びに特化した小型の裁縫セットに、縫いかけの何か...ここまで揃えば間違いないだろう。
少し沈黙が続いたが、やがて少女は話しはじめた。
「私にできるのはそれくらいなんです。
...これ、一応組み立てるとティッシュケースになります」
そのできは今すぐ雑貨として店で売られていてもおかしくないほどで、目の前の少女の才能を実感した。
「君はできることをせいいっぱいやってる。もし俺がやったら、こんなふうに綺麗に縫うことはできないと思う。
是非ここで続きを縫っていって」
「...私、これで誰かの役に立てますか?」
「少なくとも、俺は今元気をもらったよ」
少女は涙を流しながら笑っている。
...本当に思ったことを率直に伝えたのがよかったらしい。
これだけのものがあるのに、何故彼女はあれだけ卑屈になっていたのだろう。
少し不思議に思いながら、ダージリンを淹れた。
「ありがとうございました」
彼女が縫い進めながら飲み終わる頃、砂時計の砂は全て落ちきっていた。
「あの、私、お金ってあんまり持ってないんですけど...」
「この店ではお金をもらってないんだ。ただ...もしよかったらそれをもらってもいいかな?」
それは、先程できあがったばかりのティッシュケースとコースターだ。
「こんなものでよければ...」
「ありがとう。俺にとっては価値あるものだよ。...あなたにはあなただけのやり方があるはずです。
どうか、やりたいことを見つけたら極めてください」
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました」
遠ざかる少女の背中に一礼して、そのまま片づけをはじめる。
『たとえーーーーーても、君はこんなに可能性に満ちている。だから...これは諦めなくていいんだよ、──』
...俺が諦めてばかりなことを、どうして見抜いたんですか?
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ちょっと待ってよ、シンデレラ
daisysacky
ライト文芸
かの有名なシンデレラストーリー。実際は…どうだったのか?
時を越えて、現れた謎の女性…
果たして何者か?
ドタバタのロマンチックコメディです。
もしもし、こちらは『居候屋』ですが?
産屋敷 九十九
ライト文芸
【広告】
『居候屋』
あなたの家に居候しにいきます!
独り身で寂しいヒト、いろいろ相談にのってほしいヒト、いかがですか?
一泊 二千九百五十一円から!
電話番号: 29451-29451
二十四時間営業!
※決していかがわしいお店ではありません
※いかがわしいサービス提供の強要はお断りします
怪人幻想
乙原ゆう
ライト文芸
ソプラノ歌手を目指す恵美が師の篠宮と共に音楽祭のために訪れたクロウ家の館。そこには選ばれた者だけが出会える「ファントム」がいるという。
「私を想い、私の為だけに歌うがいい。そうすればおまえはこの曲を歌いこなせるだろう」
ファントムに導かれる恵美とそれを危惧する若きピアニストのエドワード。
そんな中、篠宮が突然引退を決意して恵美が舞台に立つことに……
こうして僕らは獣医になる
蒼空チョコ@モノカキ獣医
ライト文芸
これは獣医学科に通い始めた大学一年生たちの物語。
獣医といえば動物に関わる職業の代名詞。みんながその名前を知っていて、それなのに動物園や動物病院で働く姿以外はほぼ知られていないという不思議な世界。
大学の獣医学科とは、動物の治療にも死に立ち会ったこともない学生たちが、獣医師というものに成長していく特別な場所だ。
日原裕司が入学した大学には、専門的な授業を受けるほかに、パートナー動物を選んで苦楽を共にする制度がある。老いた動物、畜産動物、エキゾチックアニマルなど、『パートナー』の選び方は様々。
日原たちはそんな彼らと付き合う中で大切なことを学び、そして夢に向かって一歩ずつ進んでいく。
ただの学生たちが、自分たちの原点を見つけて成長していく物語。
【短編集】或るシンガーソングライターの憂鬱/或るシングルマザーの憂鬱
ふうこジャスミン
ライト文芸
●【連載中】「或るシンガーソングライターの憂鬱」
闇堕ちした元シンガーソングライターの、変人たちに囲まれた平凡な日常
●【完結】「或るシングルマザーの憂鬱」シングルマザーの小北紗季は、職場の変人メガネ男と恋愛関係に発展するか!?
【完結】お茶を飲みながら -季節の風にのって-
志戸呂 玲萌音
ライト文芸
les quatre saisons
フランス語で 『四季』 と言う意味の紅茶専門のカフェを舞台としたお話です。
【プロローグ】
茉莉香がles quatre saisonsで働くきっかけと、
そこに集まる人々を描きます。
このお話は短いですが、彼女の人生に大きな影響を与えます。
【第一章】
茉莉香は、ある青年と出会います。
彼にはいろいろと秘密があるようですが、
様々な出来事が、二人を次第に結び付けていきます。
【第二章】
茉莉香は、将来について真剣に考えるようになります。
彼女は、悩みながらも、自分の道を模索し続けます。
果たして、どんな人生を選択するのか?
お話は、第三章、四章と続きながら、茉莉香の成長を描きます。
主人公は、決してあきらめません。
悩みながらも自分の道を歩んで行き、日々を楽しむことを忘れません。
全編を通して、美味しい紅茶と甘いお菓子が登場し、
読者の方も、ほっと一息ついていただけると思います。
ぜひ、お立ち寄りください。
※小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にても連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる