クラシオン

黒蝶

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未知の症状

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それからは常連のお客様がやってくる日々が少しだけ続いていた。
どんなにほしくても居場所を得られないことは、最近では珍しいことではなくなりつつあるのかもしれない。
「ありがとうございました」
そうして3時間ほど睡眠をとると、からんとベルが鳴り響く。
「いらっしゃいませ」
この日やってきたお客様は、体のバランスをとりづらそうにしていた。
右腕の痙攣がおさまっていない。
「こちらにおかけになってお待ちください」
「ありがとうございます」
その少年はゆっくり腰をおろすと、ふう、と息を吐く。
ここまで歩くのに疲れたのか、それとも別の理由があるのかは分からない。
憶測で話すのは失礼な気がして、そのまま様子を見ることにした。
『怪我や病に、特別な事情を抱えていらっしゃるお客様が大勢いる。
どんなに酷いものでも、現実から目を逸らしてはいけないよ』
あの人が言っていたことを思い出しつつ、お客様が求めていそうなものを探す。
一体どんなものだったら喜んでもらえるだろうか。
「お待たせいたしました」
飲み物からお出ししようと思い、一先ずアイスティーを差し出す。
ストローを自由にさせるように持っていくと、少年は息をするように言った。
「ありがとうございます。...すみません」
「俺に謝る必要はどこにもありません。あなたは大切なお客様ですから」
「それじゃあ、いただきます」
片手で袋を破るのは苦労するのではないかと今さら気づいたが、様子を見守ることにする。
あまりに手を出しすぎると、相手に気を遣わせるうえ失礼になるからだ。
「何か食べたいものはありませんか?」
「それなら、何か甘いものが食べたいです。あとはおまかせします」
「かしこまりました」
恐らく彼は朝食を摂っていない。
食事を抜くほどの何かがあったと見るべきだろうか。
それとも、やはり身体的な問題なのだろうか...考えを巡らせていた瞬間、がちゃんと音をたてて何かが割れる。
「え、あ...すみません!」
「大丈夫ですよ。奥の席まで移動しましょうか」
日当たりがいいからなんていうありきたりな理由からお通しした場所から、端の方にあるもののハーブ園が見える場所へと荷物をうつす。
「本当にすみません...」
「元々古いグラスですので、どうか気にしないでください」
これは買い換えどきか...そんなことを呑気に考えつつ、掃除する手を速める。
急がなければ料理に支障をきたす。
欠片を集めていると、少年はぽつりと呟いた。
「...どうして僕のこと、普通の人間として扱ってくれるんですか?」
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