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厄介者扱い
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「お待たせいたしました。ガトーショコラです」
チョコレートが好きだと言っていたから、なんていう単純な理由でデザートに出してみることにした。
気に入ってもらえるか不安だったが、目の前の笑顔に嘘は混ざっていない。
「...」
彼女は両手をあわせ、そのまま一口ずつ食べている。
「お気に召していただけたようでなによりです」
『心からの笑顔ほど大切なものはないんだ。それを見逃してはいけないよ、──』
今の笑顔は、きっと作り物ではない。
「君がどんな経験をしてきたのか、ゆっくりでいいから話してもらえないかな?」
彼女は戸惑う様子を見せながらも、ゆっくり書きはじめた。
《私は牧瀬小夜といいます。
星を眺めるのが趣味で、時々小説を書いたり折り紙を折ったり...代筆もしています》
「それはすごいね」
小夜は嬉しそうに頷いた後、また悲しそうな目を向ける。
「...」
「言いたくないことは無理矢理話さなくていいからね」
書き終わった彼女の表情は少し苦しげだった。
《私がいると、みんなの邪魔になってしまうんです。
みんな違ってみんないいなんて嘘。結局同じであることを求められてしまう...。
私は病気になる前、歌手を目指していました。いつか自分の創った歌で誰かに寄り添えたらって...》
「でも、病気で声が出なくなった?」
「...」
彼女はゆっくり首を縦にふる。
いつの時代も差別はなくならない...あの人の言葉を思い出しながら、自らの無力さを嘆かずにはいられない。
《お仕事の面接も、大学への進学も断られました。...だから、私は私を殺してしまおうと思ったんです》
この場所は死ぬのに丁度いいと思われがちだ。
山奥まで入ってこられる人は滅多にいないし、何より月や星が綺麗に見える。
「君は何も悪いことをしていないのに、周りの人たちにおこる悪いこと全てが自分のせいだと思っているんだね」
彼女はまた小さく頷いた。
...自分の心が1番傷つけられているはずなのに、優しさのあまりそのことにさえ気づけていない。
『真面目や優しいといった面が長所とはいえない時代がやってくる。...現に今だってそうだしね』
あの人の言葉も、今なら少しだけ理解できる。
《もう疲れてしまって...限界なんです。できれば誰とも関わりたくない》
彼女の瞳からはまた涙が零れ落ちる。
「今日はここまでにしようか。話してくれてありがとう」
...どのみちこの時間に帰すのは危険だ。
奥の部屋を使ってもらおうとゆっくり手をひく。
「こちらの部屋を使ってください。...何かあれば呼んでくれればいいから」
砂時計は壊れてしまったのか、砂が全く減っていない。
彼女を人里に帰すべきではないと、そういうことなのだろうか。
チョコレートが好きだと言っていたから、なんていう単純な理由でデザートに出してみることにした。
気に入ってもらえるか不安だったが、目の前の笑顔に嘘は混ざっていない。
「...」
彼女は両手をあわせ、そのまま一口ずつ食べている。
「お気に召していただけたようでなによりです」
『心からの笑顔ほど大切なものはないんだ。それを見逃してはいけないよ、──』
今の笑顔は、きっと作り物ではない。
「君がどんな経験をしてきたのか、ゆっくりでいいから話してもらえないかな?」
彼女は戸惑う様子を見せながらも、ゆっくり書きはじめた。
《私は牧瀬小夜といいます。
星を眺めるのが趣味で、時々小説を書いたり折り紙を折ったり...代筆もしています》
「それはすごいね」
小夜は嬉しそうに頷いた後、また悲しそうな目を向ける。
「...」
「言いたくないことは無理矢理話さなくていいからね」
書き終わった彼女の表情は少し苦しげだった。
《私がいると、みんなの邪魔になってしまうんです。
みんな違ってみんないいなんて嘘。結局同じであることを求められてしまう...。
私は病気になる前、歌手を目指していました。いつか自分の創った歌で誰かに寄り添えたらって...》
「でも、病気で声が出なくなった?」
「...」
彼女はゆっくり首を縦にふる。
いつの時代も差別はなくならない...あの人の言葉を思い出しながら、自らの無力さを嘆かずにはいられない。
《お仕事の面接も、大学への進学も断られました。...だから、私は私を殺してしまおうと思ったんです》
この場所は死ぬのに丁度いいと思われがちだ。
山奥まで入ってこられる人は滅多にいないし、何より月や星が綺麗に見える。
「君は何も悪いことをしていないのに、周りの人たちにおこる悪いこと全てが自分のせいだと思っているんだね」
彼女はまた小さく頷いた。
...自分の心が1番傷つけられているはずなのに、優しさのあまりそのことにさえ気づけていない。
『真面目や優しいといった面が長所とはいえない時代がやってくる。...現に今だってそうだしね』
あの人の言葉も、今なら少しだけ理解できる。
《もう疲れてしまって...限界なんです。できれば誰とも関わりたくない》
彼女の瞳からはまた涙が零れ落ちる。
「今日はここまでにしようか。話してくれてありがとう」
...どのみちこの時間に帰すのは危険だ。
奥の部屋を使ってもらおうとゆっくり手をひく。
「こちらの部屋を使ってください。...何かあれば呼んでくれればいいから」
砂時計は壊れてしまったのか、砂が全く減っていない。
彼女を人里に帰すべきではないと、そういうことなのだろうか。
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