クラシオン

黒蝶

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背負っているのは

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ぼんやりとしたまま数日が経ってしまった。
もっとお客様と上手く話せたはずなのにと思うと、なんだか調子が出ずにいる。
「元気がないように見えるけど、大丈夫ですか?」
「ごめん。俺は平気だよ」
できるだけいつもどおりを装ってみせるが、妖精は不安そうな表情をしている。
何をどうするのが正解なのか、どんどん分からなくなってきた。
『訳が分からなくなってしまったときは、迷子になったということだ。
そういうときは原点に立ち返ると大抵上手くいく。──ならきっとできるよ』
「やっぱり買い被りすぎです」
そんな言葉が口から零れてしまいながら、早朝から掃除し続けている。
...そうしていれば、考えずにすむような気がして。
「終わった...」
休もうかと考えていたとき、かたんと扉が開かれる。
できるだけ笑顔を作りながら、ドアに向かって一礼した。
「いらっしゃいませ。ようこそ、『クラシオン』へ」
「あの、ここってどういうお店なんですか...?」
その少女はジャージ姿で、ボロボロのリュックサックを背負っている。
「ここはカフェです。見てのとおり、他にお客様はいらっしゃいませんが...」
「そう、なんですね」
着ているジャージにはなんとなく見覚えがある。
覚え間違いでなければ、いつも材料を調達する場所のすぐ近くの学校のものだ。
...この時間なら学生は授業があるはずだが、学校が嫌で行かなかったということだろうか。
「朝食をまだ召し上がられていらっしゃらないようでしたら、これからお作りします」
「いえ、お構いな、」
そのとき、きゅるるとお腹が鳴る音がした。
「やはりお作りいたしますのでそちらの席へどうぞ」
「あ、ありがとうございます...」
なんだか微笑ましく感じつつ、炊飯器を開ける。
...大丈夫、ふっくら炊くことができたようだ。
おにぎりにするか、おかずは何を入れようか...様々なことに思考を巡らせていると、沈んだ表情が目に入る。
「...綺麗な場所」
少女は何かを書いていた手を止め、壁にかけてある絵に目を向けている。
それは先日お客様からいただいたもので、なんだか俺まで元気になれるような気がした。
「お待たせいたしました」
悩んだ末、卵焼きに焼き魚、味噌汁、小鉢...ありふれたものばかりになっえしまった。
「こんなに豪華な朝食、久しぶりかも...」
食べる前から感謝の言葉を口にする理由が、俺にはいまひとつ分からない。
かなり気に入ってもらえたようで、両手をあわせて頬をほころばせながら召し上がっている。
...ただ、なんだか背中が寂しげにうつるのは何故だろう。
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