クラシオン

黒蝶

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彼女に必要なもの

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「私が、ですか?」
「今の話を聞いていると、君はものすごく頑張ってきたんだなと俺は思ったよ」
「...!」
心が傷ついているのはよく分かる。
お姉ちゃんだからと我慢していることも、恐らく独りで泣いている夜があることも。
それを努力できていると言わずして何と表現するのだろう。
「どんなに周りに認められなかったとしても、君には努力できるという才能がある。
それに、君の心は君だけのものだ。...どうにもならないこともあるんだろうけど、ずっとひとりで我慢しなくてもいいんだって俺は思う。
...君は絵を描くのが好きなのかな?」
「どうして分かったんですか?」
「指に蛸ができているのと、あとは...そこ、色鉛筆がついてるよ」
よくよく観察してみると、彼女の洋服にはいたるところに色が散らばっていた。
黄色に青、緑...自然が好きなのだろうか。
「探偵さん、みたいですね」
「そこまでのものではないと思うけど、ありがとう。人に褒められたことってあんまりないから嬉しいな」
「私もあんまりないので、誰かのことを褒められる人でいたいんです」
彼女の表情は少しだけ晴れている。
その事実に安堵しながらも、少しずつ砂が落ちていることに気づく。
「...なんでもいいから、君が好きなものを描いてみてもらえないかな?」
「え、あ、はい!」
生き生きとした表情を見ているとこちらも安心できる。
正解かどうかは分からないが、間違っていたわけでもないらしい。
「このお店、とても綺麗な場所ですね」
「ありがとう」
この場所を作ったのは俺ではないのだが、今はそれよりも彼女の絵を見てみたい。
しばらくしてから飲み物を持って声をかけると、もうすでに完成していた。
「こちらもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「君が描く絵は綺麗だね。...君の心みたいだ」
「褒められるの、慣れてないから照れちゃいます」
他愛のない会話をしている間にも時間はどんどん過ぎていく。
「今日はもう帰った方がいい。あまり暗くなると危ないから」
「は、はい...。あの、お金は、」
「この店ではお金はもらっていないんだ。
そうだな...それじゃあこの絵をもらってもいいかな?それがお代ということで」
「勿論です」
「また悩みごとがあったらいつでもいらしてください」
ようやく笑顔になった彼女の様子を見つめながら、首にぶら下げた砂時計を見てみる。
なんとか全ての砂が落ちきる前に帰せてよかった、そんなことを考えながら昔のことを思い出した。
『君は探偵のような観察眼を持っているね。自信がないならここで仕事をしていくといい。
よろしくね、──』
...俺なんてまだまだあなたには敵わない。
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