在庫処分

ほっこり系

新緑

「こんにちは。お腹空いてない？」
突然そんなふうに声をかけられて固まってしまう。
相手は察してくれたのか、その場にしゃがんで話を続けた。
「ごめんね。不審者じゃないの」
「ふしんしゃ……」
「ただ、これを飲んでみてほしいだけなんだ」
「お金、持ってないです」
「そんなの気にしなくていいよ。おいで」
引き戸の開閉に苦戦つつなんとか中に入ると、浅めのお皿にスープが盛り付けられていた。
「これを飲んでみてほしいんだ」
「いいんですか？」
「寧ろ飲んだ感想がほしいな、なんて」
「いただきます」
熱いかもしれないと警戒したけど、全然そんなことはない。
とても冷たい。
「どうかな？」
「かぼちゃのスープですか？」
「そう！温かいのもいいけど、冷製スープにしたんだ」
「美味しいです」
「よかった」
ぱっと明るくなったその人に、図々しいのを承知で声をかけた。
「もし、嫌じゃなかったらなんですけど……ここで働かせてもらえませんか？」
「いいの？私としては助かるけど……」
洗われていない食器に、部屋の隅っこに見える大量の衣類が入った洗濯かご。
もしかしてと思った。
「働かせてほしいです」
「喜んで」
「ありがとうございます」
新しい環境を探したくて家を出たまでは良かったものの、その後の生活基盤を整えていなかったため苦戦していた。
勿論、今のスープのお礼がしたいのもある。こんなに美味しいのにお店がなくなってしまったら悲しい。
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
木々のせせらぎに囲まれて、固い握手を交わす。
この場所で頑張ってみよう。