在庫処分

黒蝶

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ほっこり系

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「ジーン」
そう呼びかけただけで、にゃあと元気よく返してくれる。
こいつにとっても楽しい時間であってほしいが、本心はどう思っているんだろう。
特に何かを一緒にする仲ではない。
ただ一緒にいて休むだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
「連絡、くるかな」




──なんて言っていたのが3日前。
どうにか飼い主を見つけてやりたい。
その一心で今日も手書きの張り紙を電柱にくっつける。
「長澤?何やってんの?」
「……別に」
「別にってことはないだろ。その猫おまえの?」
「迷子みたいなんだ。餌やるのもまずいだろうから、水しかあげてない」
「にしては空腹っぽくないな……誰かが飯あげてるのかも。名前は?」
「ジーン。首輪に書いていた」
ほとんど会話したことがないクラスメイトとの距離感が分からない。
だが、僕がそんなことを考えているなんて彼は思っていないだろう。
「長澤、SNSってやってる?」
「一応」
「それ使えば早くね?」
「……思いつかなかった」
「俺も上げとくよ。誰にも教えてないアカウントで」
それからすぐ連絡がきて、ジーンは街みっつ分離れた場所から歩いてきたことが判明した。
車で25分ほどの距離だというのに、そんな体力があるなんて驚きだ。
「ありがとうございました」
ジーンを見送り、持ってきていた荷物をまとめる。
「それ、おもちゃ?」
「遊べそうなものを用意してた」
「渡さなくてよかったのか?」
「相手が迷惑に思っただろうから」
「どこで買ったの?」
「……趣味、だから」
あまり言いたくなかった。
手作りなんて言ったらドン引きされそうで。
だが、そいつの反応は予想外だった。
「すげえ!俺不器用だから、そんなの作れないよ」
「けど、山本は色々できるだろう?」
「そんなことないよ」
「飼い主のところに帰せたのは君のおかげだよ。ありがとう」
「……やっと呼んでくれた」
その後、山本と連絡先を交換した。
誰ともつるまずにいた僕に初めてできた友だちだ。
灰色のあの子が運んでくれた幸福を大切にしよう。
僕史上最大の至福だった3日間を、僕はきっと忘れない。
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