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逆境を壊す
第64話
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お湯が沸いた音がして、少しずつお茶を仕上げていく。
桜雪は何も言わずじっと待っていてくれた。
どこまでなら話していいのか分からない。
考えていたことを見抜かれたのか、桜雪がメモを見せてきた。
「【大丈夫。話せるところから、穂さんの気持ちを知りたい】」
「ありがとう。桜雪は優しいね」
わしわしと頭を撫でながら、吐き出せない苦しみを呑みこむ。
相棒のひとりがいなくなってしまったことは話さないといけない。
…ただ、圭の最期は黙っておこう。
「圭、起きてる?」
約束通り翌日は行かず、その翌日の午後病室を訪ねる。
個室にいた圭に話しかけると、なんだか疲れた顔をしていた。
「…何かあった?」
「そう見える?」
「この前より元気がない気がする」
「鋭いね、霧は」
圭は少し黙っていたけど、ゆっくり話してくれた。
……黒川が仕掛けたサプライズがどんなものだったのか。
「会いたくないって話したのに、分かってもらえなかったってこと?」
「うん。具合が悪くなったって聞いたら心配して会いに来てくれるって…淳が羨ましくなっちゃった」
震える圭に掛ける言葉が見つからない。
結局沈黙したまま林檎をむいて、何かあったらすぐ逃げるように話して病室を後にする。
…俺の家に逃げてきても構わないとも伝えて。
事件はその翌日おきた。
「もしもし?」
『……霧』
「圭!?大丈夫?何かあった?」
深夜、人通りが少ない道路を歩いていたところに圭から連絡がきた。
「今どこ?」
『…病院』
「すぐ行くから待ってて」
通話は切らないまま夜道を駆ける。
途中の信号を渡ったところで、電話口からか細い声が耳に届いた。
『ごめんね、霧』
その直後、背後からぐしゃりと音がする。
振り返った瞬間真っ赤な血しぶきに紛れて飛んできたのは、圭がいつも持っていたくまのキーホルダーだった。
「歩道橋から女の子が飛び降りたぞ!誰か救急車!」
いつも別の道を通るから知らなかったけど、ひとつ別の通りに歩道橋がついている。
…さっき病院にいるって言ってたじゃないか。
俺がここにいるとは思っていなかったんだろうけど、圭の心を殺したのは……支えきれなかった俺だ。
あまりの衝撃にその場にしゃがみこむ。
「ごめん、圭……」
近くに落ちてきたキーホルダーを握りしめ、ただ泣き叫ぶ。
それからギターに触れる度圭を思い出し、手がしびれるようになった。
葬式の喪主をつとめたのは事務所のマネージャーだったため、その人の番号だけは残っている。
全てが終わってすぐ事務所を逃げるように辞め、黒川からの連絡先にブロックした。
「……」
はっと顔をあげると、桜雪が不安げに瞳を揺らす。
ティーカップを並べて、できるだけいつもどおりに話しかける。
「ごめんね。ちゃんと話すから聞いてくれる?」
桜雪はゆっくり頷いて、俺の向かいの席に座る。
「もし気分が悪くなったら言ってね。すぐ止めるから」
彼女が首を縦にふったのを確認して、少しずつ話した。
桜雪は何も言わずじっと待っていてくれた。
どこまでなら話していいのか分からない。
考えていたことを見抜かれたのか、桜雪がメモを見せてきた。
「【大丈夫。話せるところから、穂さんの気持ちを知りたい】」
「ありがとう。桜雪は優しいね」
わしわしと頭を撫でながら、吐き出せない苦しみを呑みこむ。
相棒のひとりがいなくなってしまったことは話さないといけない。
…ただ、圭の最期は黙っておこう。
「圭、起きてる?」
約束通り翌日は行かず、その翌日の午後病室を訪ねる。
個室にいた圭に話しかけると、なんだか疲れた顔をしていた。
「…何かあった?」
「そう見える?」
「この前より元気がない気がする」
「鋭いね、霧は」
圭は少し黙っていたけど、ゆっくり話してくれた。
……黒川が仕掛けたサプライズがどんなものだったのか。
「会いたくないって話したのに、分かってもらえなかったってこと?」
「うん。具合が悪くなったって聞いたら心配して会いに来てくれるって…淳が羨ましくなっちゃった」
震える圭に掛ける言葉が見つからない。
結局沈黙したまま林檎をむいて、何かあったらすぐ逃げるように話して病室を後にする。
…俺の家に逃げてきても構わないとも伝えて。
事件はその翌日おきた。
「もしもし?」
『……霧』
「圭!?大丈夫?何かあった?」
深夜、人通りが少ない道路を歩いていたところに圭から連絡がきた。
「今どこ?」
『…病院』
「すぐ行くから待ってて」
通話は切らないまま夜道を駆ける。
途中の信号を渡ったところで、電話口からか細い声が耳に届いた。
『ごめんね、霧』
その直後、背後からぐしゃりと音がする。
振り返った瞬間真っ赤な血しぶきに紛れて飛んできたのは、圭がいつも持っていたくまのキーホルダーだった。
「歩道橋から女の子が飛び降りたぞ!誰か救急車!」
いつも別の道を通るから知らなかったけど、ひとつ別の通りに歩道橋がついている。
…さっき病院にいるって言ってたじゃないか。
俺がここにいるとは思っていなかったんだろうけど、圭の心を殺したのは……支えきれなかった俺だ。
あまりの衝撃にその場にしゃがみこむ。
「ごめん、圭……」
近くに落ちてきたキーホルダーを握りしめ、ただ泣き叫ぶ。
それからギターに触れる度圭を思い出し、手がしびれるようになった。
葬式の喪主をつとめたのは事務所のマネージャーだったため、その人の番号だけは残っている。
全てが終わってすぐ事務所を逃げるように辞め、黒川からの連絡先にブロックした。
「……」
はっと顔をあげると、桜雪が不安げに瞳を揺らす。
ティーカップを並べて、できるだけいつもどおりに話しかける。
「ごめんね。ちゃんと話すから聞いてくれる?」
桜雪はゆっくり頷いて、俺の向かいの席に座る。
「もし気分が悪くなったら言ってね。すぐ止めるから」
彼女が首を縦にふったのを確認して、少しずつ話した。
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