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第29話
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おにぎりを食べながら、少し重い沈黙が流れる。
温かいお茶を飲んでいると、桜雪ちゃんがメモを見せてくれた。
「【さっきはありがとうございました。迷惑をかけてすみませんでした】」
「迷惑だなんて思ってないよ。いつもあんな感じなの?」
「【いつもの店員さんだと、書いたものを見せれば会話ができます。
今日はたまたま上手くいかなかったけど、大丈夫です】」
あれだけ酷いことをされて大丈夫なはずがない。
「さっきの店員さんたち、ふたりとも見たことなかったから最近入ったんだろうけど…それにしても酷い対応だったね」
桜雪ちゃんの鞄にはパスケースがついていて、中には見覚えのある赤字に白い十字とハートのマークが書かれたものが見えるように入っていた。
「それ、ヘルプマークでしょ?それに、筆談するって分かるようにノートのシールをパスケースに貼ったんだよね?」
「……【ヘルプマークの近くは余白じゃないといけないって書いてあったので、必要なときだけ見えるように手作りしたんです】」
ヘルプマークというのは、簡単に言えば助けが必要な場合がある人たちがお守りにしているものだ。
体が不自由だったり心臓が弱かったり、パニック発作をおこしたり…症状は人によって違う。
「役場に貰いに行かなかったの?」
「【私は声が出なかったり、少し休めばよくなる症状があるだけなので…。
本当に困る人に思いやりが届かなくなるならこれでいいって思ったんです】」
桜雪ちゃんは優しい。
だけど、やっぱりそこに自分自身は含まれていないようだ。
「この前もああいうことがあったの?ビデオ通話した日…元気なかったでしょ?」
メモに急ぎめで書いている桜雪ちゃんの姿にはっとして言葉を止めた。
「ごめん、話すのが早すぎたよね。もっとゆっくり書いて。ちゃんと待ってるから」
残っていたおにぎりと焼き鳥を一切れ口にする。
少し冷めていたものの、いつもより美味しく感じた。
「【慣れているので大丈夫です。耳が聞こえていないと思われていて、色々言われることもあるけど──】」
続きの文字が滲んでいる。
どう声をかけようか迷ったけど、遠回しに言うのが苦手な俺は率直に伝えることにした。
「桜雪ちゃんはいつも大丈夫って言うけど、俺から見た桜雪ちゃんはすごく傷ついてるように見える。
嫌なことを我慢して、大丈夫、慣れてるって笑って…。みんなに話すのが無理なら、俺にこっそり教えてくれない?
上手く言えないんだけど、桜雪ちゃんがひとりで苦しんでいるのは嫌なんだ」
ぱっと顔をあげた桜雪ちゃんは、目をこすりながらメモにはっきり言葉をぶつける。
「【慣れてきたのは本当です。でも、いつも平気で笑っていられるわけじゃない。辛い】」
そっと髪に触れたけど、嫌がられている様子はないのでそのまま頭を撫でる。
辛い…その言葉に重みを感じた。
温かいお茶を飲んでいると、桜雪ちゃんがメモを見せてくれた。
「【さっきはありがとうございました。迷惑をかけてすみませんでした】」
「迷惑だなんて思ってないよ。いつもあんな感じなの?」
「【いつもの店員さんだと、書いたものを見せれば会話ができます。
今日はたまたま上手くいかなかったけど、大丈夫です】」
あれだけ酷いことをされて大丈夫なはずがない。
「さっきの店員さんたち、ふたりとも見たことなかったから最近入ったんだろうけど…それにしても酷い対応だったね」
桜雪ちゃんの鞄にはパスケースがついていて、中には見覚えのある赤字に白い十字とハートのマークが書かれたものが見えるように入っていた。
「それ、ヘルプマークでしょ?それに、筆談するって分かるようにノートのシールをパスケースに貼ったんだよね?」
「……【ヘルプマークの近くは余白じゃないといけないって書いてあったので、必要なときだけ見えるように手作りしたんです】」
ヘルプマークというのは、簡単に言えば助けが必要な場合がある人たちがお守りにしているものだ。
体が不自由だったり心臓が弱かったり、パニック発作をおこしたり…症状は人によって違う。
「役場に貰いに行かなかったの?」
「【私は声が出なかったり、少し休めばよくなる症状があるだけなので…。
本当に困る人に思いやりが届かなくなるならこれでいいって思ったんです】」
桜雪ちゃんは優しい。
だけど、やっぱりそこに自分自身は含まれていないようだ。
「この前もああいうことがあったの?ビデオ通話した日…元気なかったでしょ?」
メモに急ぎめで書いている桜雪ちゃんの姿にはっとして言葉を止めた。
「ごめん、話すのが早すぎたよね。もっとゆっくり書いて。ちゃんと待ってるから」
残っていたおにぎりと焼き鳥を一切れ口にする。
少し冷めていたものの、いつもより美味しく感じた。
「【慣れているので大丈夫です。耳が聞こえていないと思われていて、色々言われることもあるけど──】」
続きの文字が滲んでいる。
どう声をかけようか迷ったけど、遠回しに言うのが苦手な俺は率直に伝えることにした。
「桜雪ちゃんはいつも大丈夫って言うけど、俺から見た桜雪ちゃんはすごく傷ついてるように見える。
嫌なことを我慢して、大丈夫、慣れてるって笑って…。みんなに話すのが無理なら、俺にこっそり教えてくれない?
上手く言えないんだけど、桜雪ちゃんがひとりで苦しんでいるのは嫌なんだ」
ぱっと顔をあげた桜雪ちゃんは、目をこすりながらメモにはっきり言葉をぶつける。
「【慣れてきたのは本当です。でも、いつも平気で笑っていられるわけじゃない。辛い】」
そっと髪に触れたけど、嫌がられている様子はないのでそのまま頭を撫でる。
辛い…その言葉に重みを感じた。
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