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第3話
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制服に袖を通そうとしてぴたりと動きを止める。
そうだ、もうこの服着なくていいんだ。
悪目立ちするといけないから、カッターシャツと制服っぽく見えるズボンをはいて旧校舎へ向かう。
「それじゃ、収穫祭イベントの見回りについて会議をはじめます」
もう通信制の生徒なのにここにいるのは、通信制の役員になったからだ。
話さなくてすむものにしたかったから、先生に推薦してもらえた監査部員を断って会計補佐になりたいとお願いした。
ただ、行事のときの話し合いは出ないといけないらしくて、今日は書記も兼ねてここにいる。
「見回りは監査部でなんとかまわすから、後のことは頼んでも大丈夫かな?」
「分かりました」
この学校では定時制と通信制合同でイベントをすることが多い。
そこに昼間制の生徒が手伝いに来てくれるのだ。
会いたくない相手はいないし、本当に安心している。
「ごめん、俺話すの早くなかった?」
私のことを気にかけてくれたのは、監査部のバッジが光る制服を着た部長さんだった。
生徒会からも独立した権限を持った生徒主導の委員会であり、顧問の先生からの推薦がないと入れない監査部。
生徒だけじゃなくて教師も取り締まる場所だと先生から聞いて怖い人かと思っていたけど、ただの優しい人だって初めて会ったときから知ってる。
「陽向、その子は耳は聞こえてるから大丈夫だよ。速記すごいし、字は綺麗だし」
「え、そうなの?じゃあ桜良っぽい感じか…。分からないことがあれば俺とか先生とか穂に聞いてね」
ぱっと顔をあげると、昨日ぶりに会う人が立っている。
吃驚している私を見て夏霧さんは笑っていた。
「まさかこんなに会う機会が多いとは思ってなかったよ。桜雪ちゃん、会計?」
首を縦にふったのを見て、太陽みたいに微笑んでいる。
「そっか。俺は一応監査部員なんだ。まあ、色々あってあんまり積極的に参加してるわけじゃないけど…」
夏霧さんが着ているのは監査部長さんとは別の制服だ。
ということは、定時制なのだろうか。
心を読んだように彼は教えてくれた。
「一応併修生なんだ。たまに昼間授業を受けてたら、陽向がよくしてくれて…なんだかんだ友だちだと思ってる。
桜雪ちゃん、もしよかったらこの後一緒にご飯食べに行かない?」
出会って数日の相手にいきなりそんなことを言われても戸惑う。
それに、私と一緒にいたら嫌な思いをさせてしまうかもしれない。
どう断ろうか考えていると、お腹が鳴ってしまった。
「……!」
「お腹空いてるんでしょ?一緒に行こうよ」
無理矢理連れて行こうという意思は感じないし、一緒にいてもいいだろうか。
荷物をまとめて小さく頷くと、ぱっと表情が明るくなった。
「それじゃあ、近くの喫茶店にしようか」
少し後ろを歩きながら、昼間制の誰かに見つからないことをひたすら祈る。
なんとか校舎の外に出られてほっとした。
そうだ、もうこの服着なくていいんだ。
悪目立ちするといけないから、カッターシャツと制服っぽく見えるズボンをはいて旧校舎へ向かう。
「それじゃ、収穫祭イベントの見回りについて会議をはじめます」
もう通信制の生徒なのにここにいるのは、通信制の役員になったからだ。
話さなくてすむものにしたかったから、先生に推薦してもらえた監査部員を断って会計補佐になりたいとお願いした。
ただ、行事のときの話し合いは出ないといけないらしくて、今日は書記も兼ねてここにいる。
「見回りは監査部でなんとかまわすから、後のことは頼んでも大丈夫かな?」
「分かりました」
この学校では定時制と通信制合同でイベントをすることが多い。
そこに昼間制の生徒が手伝いに来てくれるのだ。
会いたくない相手はいないし、本当に安心している。
「ごめん、俺話すの早くなかった?」
私のことを気にかけてくれたのは、監査部のバッジが光る制服を着た部長さんだった。
生徒会からも独立した権限を持った生徒主導の委員会であり、顧問の先生からの推薦がないと入れない監査部。
生徒だけじゃなくて教師も取り締まる場所だと先生から聞いて怖い人かと思っていたけど、ただの優しい人だって初めて会ったときから知ってる。
「陽向、その子は耳は聞こえてるから大丈夫だよ。速記すごいし、字は綺麗だし」
「え、そうなの?じゃあ桜良っぽい感じか…。分からないことがあれば俺とか先生とか穂に聞いてね」
ぱっと顔をあげると、昨日ぶりに会う人が立っている。
吃驚している私を見て夏霧さんは笑っていた。
「まさかこんなに会う機会が多いとは思ってなかったよ。桜雪ちゃん、会計?」
首を縦にふったのを見て、太陽みたいに微笑んでいる。
「そっか。俺は一応監査部員なんだ。まあ、色々あってあんまり積極的に参加してるわけじゃないけど…」
夏霧さんが着ているのは監査部長さんとは別の制服だ。
ということは、定時制なのだろうか。
心を読んだように彼は教えてくれた。
「一応併修生なんだ。たまに昼間授業を受けてたら、陽向がよくしてくれて…なんだかんだ友だちだと思ってる。
桜雪ちゃん、もしよかったらこの後一緒にご飯食べに行かない?」
出会って数日の相手にいきなりそんなことを言われても戸惑う。
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「……!」
「お腹空いてるんでしょ?一緒に行こうよ」
無理矢理連れて行こうという意思は感じないし、一緒にいてもいいだろうか。
荷物をまとめて小さく頷くと、ぱっと表情が明るくなった。
「それじゃあ、近くの喫茶店にしようか」
少し後ろを歩きながら、昼間制の誰かに見つからないことをひたすら祈る。
なんとか校舎の外に出られてほっとした。
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