道化師より

黒蝶

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30枚目

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「昨日はありがとう。まさか願いが叶うなんて思ってなかったよ」
「喜んでもらえてよかったです」
手料理を食べたいと言ってくれたから、どうしてももう一度作りたかった。
美味しそうに食べてくれて嬉しい。
僕たちの寿命は残りわずか。
それならば、後悔せずに終わりたい。
「蓮」
「はい」
「どうだった?」
「この数日が最高でした」
「そっか。私もだよ」
チェックアウトの時間になり、そのまま最終地点まで向かう。
「綺麗だね」
「そうですね」
ロープに薬、その他の荷物……これだけあれば問題ない。
「最後に一緒に写真撮らない?」
「いいですね」
スマホのインカメを使ったはずなのに、いつもの一眼レフくらい綺麗な1枚だ。
「戻ってもいいんだよ」
「結さんこそ」
「戻らないよ。もう決めたから」
「僕もです」
元より帰る場所などない。
本当は誰だって幸せになりたい。
だが、それができないことに気づいてしまえばこの選択以外とることができないだろう。
「ねえ、蓮。もし次の世界があるとすれば、どんな場所がいい?」
「結さんとライがいてくれれば、それで」
あとのものは何もいらない。
生まれてきた意味も生きる価値もない僕にとって大切なものはそれだけだ。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
外の世界なんて辛いだけだ。
だが、この終わりのためにあったのだとしたら仕方がなかったのかもしれない。
そう思えるくらい、今この瞬間高揚感に包まれる。
さようなら世界。さようなら理不尽。
ふたりで手を繋いで天への道を歩いた。
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