道化師より

黒蝶

文字の大きさ
上 下
28 / 33

27枚目

しおりを挟む
「いいお湯だったね」
「はい」
蓮の腕の傷をつい見てしまったけど、気づかれなかったらしい。
大きなものの他に、小さめのものが見え隠れする。
まるで、自分でつけたような──
「結さん?」
「その傷、もしかして自分でつけたのかなって」
「……すみません。汚いですよね」
「そんなことない。おそろいだなって思ってただけなの」
いつも手首につけているリストバンドを外すと、似たような形状の傷が露わになる。
蓮はかなり驚いた様子だったけど、顔を見ながら笑った。
「自分なんかって思っちゃうよね。だけど他人を傷つける勇気はないからこうするしかない」
「分かります。誰かを傷つけたいわけじゃない。だけど痛みに耐えるにはこうして誤魔化すしかない」
やっぱりこの子、昔の私みたい。
そんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、居場所がなくて自分には何もないという感情は理解できる。
できてしまう。
助けを求めても無駄だった。だからもう求めない。……そう思っていたのに。
「どうせ誰も理解してくれないって思っていたのに、君だけは私を見てくれた。写真を通してもそうだし、この傷もそう。
だから、今こうやって一緒にいられるのがすごく嬉しいんだ」
「僕もです。気味悪がられるだけだと思っていたので」
今この瞬間が生きてきて1番幸せかもしれない。
そんなことを考えながら蓮の髪を乾かす。
こんなときがいつまでもは続かない。
……壊れるくらいなら壊してしまおう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夜紅の憲兵姫

黒蝶
ライト文芸
烏合学園監査部…それは、生徒会役員とはまた別の権威を持った独立部署である。 その長たる高校部2年生の折原詩乃(おりはら しの)は忙しい毎日をおくっていた。 妹の穂乃(みの)を守るため、学生ながらバイトを複数掛け持ちしている。 …表向きはそういう学生だ。 「普通のものと変わらないと思うぞ。…使用用途以外は」 「あんな物騒なことになってるなんて、誰も思ってないでしょうからね…」 ちゃらい見た目の真面目な後輩の陽向。 暗い過去と後悔を抱えて生きる教師、室星。 普通の人間とは違う世界に干渉し、他の人々との出逢いや別れを繰り返しながら、詩乃は自分が信じた道を歩き続ける。 これは、ある少女を取り巻く世界の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

泣けない、泣かない。

黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。 ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。 兄である優翔に憧れる弟の大翔。 しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。 これは、そんな4人から為る物語。 《主な登場人物》 如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。 小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。 水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。 小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。

ノーヴォイス・ライフ

黒蝶
恋愛
ある事件をきっかけに声が出せなくなった少女・八坂 桜雪(やさか さゆき)。 大好きだった歌も歌えなくなり、なんとか続けられた猫カフェや新しく始めた古書店のバイトを楽しむ日々。 そんなある日。見知らぬ男性に絡まれ困っていたところにやってきたのは、偶然通りかかった少年・夏霧 穂(なつきり みのる)だった。 声が出ないと知っても普通に接してくれる穂に、ただ一緒にいてほしいと伝え…。 今まで抱えてきた愛が恋に変わるとき、ふたりの世界は廻りはじめる。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...