道化師より

黒蝶

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21枚目

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「空気が美味しいってこういうことを言うんだろうね」
「そうですね」
天国があればこんな場所だっただろうと思う。
色とりどりの自然に囲まれて食べるお弁当はとても美味しかった。
「ごめんね、また作ってもらっちゃって……」
「いいんです。誰かとこうやってお弁当を食べるの、夢だったので」
今朝会社から来た封筒を開けると、自主退職してほしいという内容ののものだった。
これで私の手札にまともなものは残っていない。何も残らなかった。
手札を変えるには死ぬしかない。それこそが唯一の救いになってしまった。
だけど、もう後戻りはできない。戻りたいとも思えない。
結局踏み潰されるような積み重ねだというなら、このままドロップアウトするしかない。
「嫌だと思ったら僕を置いていってください」
「そんなことしないよ。嫌だと思うことはきっとないし、ただ一緒にいてほしいんだ」
「分かりました」
「そろそろ戻ろうか」
「はい」
今日から3日間、ペンションを貸し切れるようお願いしてある。
まさかあんなに広いとは思わなかったけど、のびのび過ごせていい気分になれそうだ。
「さて、と」
蓮が入浴している間にできるだけのことをやっておきたい。
私の残った財産は全て、施設の職員だったとある人物に託すと。
流石に貯金を全額使い切ることはないだろうから、施設で仲が良かった子へのお礼も書く。
自分の印鑑と直筆のサイン、他の全て手書きでしたためた。
「お風呂上がりました」
「ありがとう。私も入ってくるね」
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