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13枚目
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今日も蓮に会えると思ったら、憂鬱な気分も一瞬で晴れていく。
「中島さん、こんにちは」
「こんにちは」
相手も仕事とはいえ、私に声をかけるのは面倒だろう。
なのに何故私に声をかけてくれるのか。
いつものように風景の写真を撮りに行きたかったのに、あれから細田さんは会う度に話をしてくれる。
「お仕事ですか?」
「はい。季節の写真を撮る予定です」
「そうなんですね」
彼の担当は私より先輩のカメラマンだ。
あのインタビューの写真以来、私が呼ばれたことはない。
「それでは、私はこれで」
「あ、あの!これ、よかったら」
蒸しパンを手渡されて、思わず受け取ってしまった。
「ありがとうございます」
「俺、中島さんのお陰で前より緊張しなくなったので……また一緒に仕事してください」
「そうなれば嬉しいです」
カメラマンごとき、なんて思われがちなのに、この人は律儀なんだろう。
恩を忘れない義理堅い人……悪い人ではない。
ただ、それが私には眩しすぎる。
「それでは、失礼します」
「お疲れ様です」
次会ったとき、なにかお返しをした方がよさそうだ。
共有されたスケジュール表を確認して、そのまま撮影予定場所へ向かう。
パン屋さんを調べるのは思いの外楽しかった。
けれど、すっかり忘れていたのだ。
彼が人気者ということは、熱狂的な誰かが彼の周りに常にいることだというのを。
「中島さん、こんにちは」
「こんにちは」
相手も仕事とはいえ、私に声をかけるのは面倒だろう。
なのに何故私に声をかけてくれるのか。
いつものように風景の写真を撮りに行きたかったのに、あれから細田さんは会う度に話をしてくれる。
「お仕事ですか?」
「はい。季節の写真を撮る予定です」
「そうなんですね」
彼の担当は私より先輩のカメラマンだ。
あのインタビューの写真以来、私が呼ばれたことはない。
「それでは、私はこれで」
「あ、あの!これ、よかったら」
蒸しパンを手渡されて、思わず受け取ってしまった。
「ありがとうございます」
「俺、中島さんのお陰で前より緊張しなくなったので……また一緒に仕事してください」
「そうなれば嬉しいです」
カメラマンごとき、なんて思われがちなのに、この人は律儀なんだろう。
恩を忘れない義理堅い人……悪い人ではない。
ただ、それが私には眩しすぎる。
「それでは、失礼します」
「お疲れ様です」
次会ったとき、なにかお返しをした方がよさそうだ。
共有されたスケジュール表を確認して、そのまま撮影予定場所へ向かう。
パン屋さんを調べるのは思いの外楽しかった。
けれど、すっかり忘れていたのだ。
彼が人気者ということは、熱狂的な誰かが彼の周りに常にいることだというのを。
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