道化師より

黒蝶

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10枚目

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人生はプラスマイナスゼロになるようできているらしい。
それなら教えてくれ。僕の人生の針はいつプラスに触れるのか。
そんな日なんてこない。だからこうするしかないんだ。
……そう思っていたのに。
「なんで……」
「え?」
「なんで泣いてくれるんですか?」
僕のために泣いてくれる人なんていないと思っていた。
誰もが見て見ぬふりをする。
だが、それは仕方のないこと。
誰だってあんな思いはしたくない。
誰もが僕を害する。
だが、それは仕方のないこと。
誰もが他者の心を汲み取れるわけではない。
そうして諦められれば簡単だった。
「家に帰りたくないなら帰らなくていい。私の家においで」
「ですが、」
「異性なら問題あるのかもしれないけど、同性なら大丈夫でしょ」
「気づいていたんですか」
「なんとなくだけどね」
この人は本当にすごい人だと思う。
カメラに視線をやると、彼女は涙を拭った。
「人は自分が持った手札で戦うんだって。だけど、今聞いた話だと君の手札はあんまり良くない。
ハリボテ家族に嫌な学校、消えない痣……嫌にもなるよね。それだけで乗り越えるなんて無茶だよ」
中島さんは震える声で僕を呼ぶ。
「蓮、気が向いたときだけでいいから私のところに来て。
少しでもいい手札が増えるように、なんでもする」
なんでこんなに優しいんだ。
「なら、時間があるときに行ってもいいですか?誰も帰ってこない日とか」
「勿論。鍵、渡しておくね」
毎日入り浸っては迷惑になる。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、また明日」
「はい。また明日」
不思議だ。今すぐ終わりにしてやるって思っていたのに、明日が楽しみになっている自分がいる。
彼女と一緒にいれば、自分だけの武器も見つけられるかもしれない。
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