道化師より

黒蝶

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6枚目

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……来ない。
お祝いを渡したかったが、今日は都合が悪かったのだろうか。
「……戻ろうか」
子猫のぬいぐるみのライに話しかけ、その場から離れる。
確かに昨日、また明日とは言われなかった。
毎日会えると思いこんでしまうなんて恥ずかしい。
「ねえ、あのビルってさ、出るとかいう話なかった?」
「あったな。死んだやつがいるとかいないとか」
「怖っ」
幽霊なんて可愛いものじゃないか、なんて心で毒づいてしまう。
勿論口に出したりはしないが、羨ましいと思ってしまった。
だって僕が安らげる時間は、ここでの時間以外には何も──


「あいついるじゃん、怪物!」
「ウケる!電車とか乗るんだね」
いつもの扱い、いつもの化け物たち。
大丈夫、だいぶ慣れた。


「あらいたの」
「ママ、これやりたい」
「いいわよ。パパが帰ってきてからね」
血が繋がっているいないに限らず僕を嫌う場所。
ひたすら部屋で耐えるしかない。
……今は殴られないだけマシだ。


連絡先を聞いておけばよかった。
そうすればこの時間も耐えられたかもしれない。
……なんて。そんな予定ないくせに。
「ライ、できたよ。新しい洋服、着せてあげる」
誰にも知られないように。
どうせ誰にも見つけてもらえないだろうが、それでいい。
知ったところで何ができる?
いつも持ち歩いているノートを広げる。
死ぬまでにやってみたいことを書いたものだ。
「ライの洋服はできたから、あとは──」
小説の題材になった場所へ行くのと、中島さんにお祝いのものを渡すこと。
ただでさえ少なかったのだ、これくらいになるのも早い。
光ひとつない空の下、全てを隠した。
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