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第28章『激甘毒林檎』
第258話
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「え、先輩!?それってもしかしなくてもあれですよね?」
「この中には、怪異に変えられてしまった本人が入っている。丁重に扱ってくれ」
「分かりました」
視えない人間にはただの紙切れ同然だろうが、そこにはたしかに人が入っている。
「調べました」
「…この男で間違いないか?」
《ああ》
場所が場所であるため、どうやって入るかという問題がある。
それでも、園田正宗の願いを叶えて噂を収束させるためにはこうする他ない。
「本当に紙が喋ってるみたいですね」
「もうちょっとマシなものがあればよかったんだけど、これ以上のものを用意してなかった。
朝になれば入れるだろうが、どんな言い訳をして中に入れてもらうかだな」
男の未練を残さないためにはどうしても行かなければならない。
怪しまれないようにと色々考えてはみるものの、頭の中でシミュレーションしても失敗してしまう。
「先輩、お悩みなら俺がなんとかしますよ」
「…おまえのコミュニケーション力でなんとかしてほしい」
「喜んで」
人が少ない時間がいいだろうと思い、夕方まで静かに過ごす。
とある場所へ向かい、インターホンを押した。
『どちらさまかな?』
「すみません。このあたりで事件があったと聞いたもので…詳しい話を聞きたくてここに来たんです。
そういう話ならあなたが詳しいと知人に教えてもらったので」
すらすらと言葉を並べる陽向には驚かされてばかりだ。
とある高齢者用マンションの一室から、その人物は出てきてくれた。
「こんばんは。突然すみません」
「いや、かまわんよ。もう遅いし、よければあがってくれ」
「お邪魔します」
持ってきた鞄の中で何かが動いているのを感じる。
もう少し待つよう手で優しく握りながら、真っ直ぐ男性を見つめた。
「早速お聞きしたいのですが、ある連続殺人事件について調べていまして…。当時の新聞記事にあなたの名前があったので、話を聞かせてほしいんです。
この男性が容疑者ではないと何故分かったのか、具体的に書かれていなかったので…教えてください」
……松尾さんという人物は真面目な人だ。
まだ警戒されているようにも見えるが、引き出しから手帳を取り出して説明してくれた。
「私はこの事件を解決できなかった。…電話で話した相手は自殺扱いになってね、真犯人は捕まらないままだったんだ。
定年までに解決したかったが、どうにもならなかった。…ここだけの話、私ももう長くない。彼に会ったら謝ろうと思っている」
陽向と話しながら目に涙をためている老人に、思い切って言ってみた。
「園田正宗さんがここにいます。これからおこることを嘘だと思ってもいいから、彼と話してください」
「この中には、怪異に変えられてしまった本人が入っている。丁重に扱ってくれ」
「分かりました」
視えない人間にはただの紙切れ同然だろうが、そこにはたしかに人が入っている。
「調べました」
「…この男で間違いないか?」
《ああ》
場所が場所であるため、どうやって入るかという問題がある。
それでも、園田正宗の願いを叶えて噂を収束させるためにはこうする他ない。
「本当に紙が喋ってるみたいですね」
「もうちょっとマシなものがあればよかったんだけど、これ以上のものを用意してなかった。
朝になれば入れるだろうが、どんな言い訳をして中に入れてもらうかだな」
男の未練を残さないためにはどうしても行かなければならない。
怪しまれないようにと色々考えてはみるものの、頭の中でシミュレーションしても失敗してしまう。
「先輩、お悩みなら俺がなんとかしますよ」
「…おまえのコミュニケーション力でなんとかしてほしい」
「喜んで」
人が少ない時間がいいだろうと思い、夕方まで静かに過ごす。
とある場所へ向かい、インターホンを押した。
『どちらさまかな?』
「すみません。このあたりで事件があったと聞いたもので…詳しい話を聞きたくてここに来たんです。
そういう話ならあなたが詳しいと知人に教えてもらったので」
すらすらと言葉を並べる陽向には驚かされてばかりだ。
とある高齢者用マンションの一室から、その人物は出てきてくれた。
「こんばんは。突然すみません」
「いや、かまわんよ。もう遅いし、よければあがってくれ」
「お邪魔します」
持ってきた鞄の中で何かが動いているのを感じる。
もう少し待つよう手で優しく握りながら、真っ直ぐ男性を見つめた。
「早速お聞きしたいのですが、ある連続殺人事件について調べていまして…。当時の新聞記事にあなたの名前があったので、話を聞かせてほしいんです。
この男性が容疑者ではないと何故分かったのか、具体的に書かれていなかったので…教えてください」
……松尾さんという人物は真面目な人だ。
まだ警戒されているようにも見えるが、引き出しから手帳を取り出して説明してくれた。
「私はこの事件を解決できなかった。…電話で話した相手は自殺扱いになってね、真犯人は捕まらないままだったんだ。
定年までに解決したかったが、どうにもならなかった。…ここだけの話、私ももう長くない。彼に会ったら謝ろうと思っている」
陽向と話しながら目に涙をためている老人に、思い切って言ってみた。
「園田正宗さんがここにいます。これからおこることを嘘だと思ってもいいから、彼と話してください」
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