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第27章『裏取引』
第249話
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《本当に倒したのかい?》
「この角が証拠になるだろう」
重い瞼をあげると、驚いた顔をした一つ目とすんとした表情で話す先生が目に入った。
「倒したのはそこで横になっている奴だ。俺は少し手伝った程度で大したことはしていない」
《ありがたい。これで安心して暮らせる》
先生が投げたあの花びらは、何かを毒で染めたらしいものだった。
どんなものなのか詳しい話を聞きたいが、他にも気になることがある。
「何故このあたりの青い薔薇が狙われたんだ?」
《他の場所で採取するものよりエキスの濃度が濃いという話は聞いている。
ただ、比べられるほど供給に余裕があるわけではないから噂程度だ》
「…成程、だから香りが強いのか」
特別強いとは感じなかったが、先生にとっては青い薔薇のなかでも少し違う香りだと感じたらしい。
音を立てないよう気をつけながら、ゆっくり体を起こす。
「他の場所で育てることはできないのか?」
《不可能ではないだろうが難しいだろうな。これだけ条件が揃っている場所は他にない》
「…そうか」
先生と一つ目の会話を聞く限り、この場所が狙われた理由はそれだろう。
だが、上質な青い薔薇が咲いているということは、それだけ毒性が強い可能性が高い。
「…依頼は果たした。約束の品を譲ってもらえますか?」
《起きていたのか》
「ついさっき」
一つ目は深々と頭を下げた。
《ありがとうございました》
「頭を上げてくれ。私だってこの街が好きだから手を貸した。それ以外の理由なんてないよ」
《もしあの角を譲ってもらえるなら、定期的に青薔薇のエキスを届けると約束しよう》
「いいのか?」
《青薔薇園を…この街を救ってもらったんだ。それくらい当然だ》
こちらにかなり有利な条件なのに、一つ目はそれでもいいと言ってエキスを分けてくれた。
《ふた月に一度、この場所へ繋がる扉の前に立って待っていてほしい。そこへ届けることにするよ》
「分かった。ありがとう」
完治は難しくてもそれで黒露の命を繋げるかもしれない。
「みんなのところへ戻らないと」
「そうだな」
《俺も店へ戻るとするよ。任せきりになっているし》
店主と話す白露と黒露、穂乃。
誰が連絡したのか、両手いっぱいに袋を持った陽向と桜良もこちらに向かってきている。
「先輩、お疲れ様です」
「お疲れ。楽しめたか?」
「はい!色々買えたし最高でした」
「そうか」
桜良の髪に簪が増えているのを見てほっこりした。
「いい子にしてたか?」
《ん……》
「さっきからずっとこんな感じだよ。多分眠いんだと思う」
先生と楽しそうに話す瞬と、少し眠そうな茜。
みんなが楽しめたならそれでいい。
…これから先もずっと楽しく過ごしたいなんて、贅沢な願いだろうか。
「この角が証拠になるだろう」
重い瞼をあげると、驚いた顔をした一つ目とすんとした表情で話す先生が目に入った。
「倒したのはそこで横になっている奴だ。俺は少し手伝った程度で大したことはしていない」
《ありがたい。これで安心して暮らせる》
先生が投げたあの花びらは、何かを毒で染めたらしいものだった。
どんなものなのか詳しい話を聞きたいが、他にも気になることがある。
「何故このあたりの青い薔薇が狙われたんだ?」
《他の場所で採取するものよりエキスの濃度が濃いという話は聞いている。
ただ、比べられるほど供給に余裕があるわけではないから噂程度だ》
「…成程、だから香りが強いのか」
特別強いとは感じなかったが、先生にとっては青い薔薇のなかでも少し違う香りだと感じたらしい。
音を立てないよう気をつけながら、ゆっくり体を起こす。
「他の場所で育てることはできないのか?」
《不可能ではないだろうが難しいだろうな。これだけ条件が揃っている場所は他にない》
「…そうか」
先生と一つ目の会話を聞く限り、この場所が狙われた理由はそれだろう。
だが、上質な青い薔薇が咲いているということは、それだけ毒性が強い可能性が高い。
「…依頼は果たした。約束の品を譲ってもらえますか?」
《起きていたのか》
「ついさっき」
一つ目は深々と頭を下げた。
《ありがとうございました》
「頭を上げてくれ。私だってこの街が好きだから手を貸した。それ以外の理由なんてないよ」
《もしあの角を譲ってもらえるなら、定期的に青薔薇のエキスを届けると約束しよう》
「いいのか?」
《青薔薇園を…この街を救ってもらったんだ。それくらい当然だ》
こちらにかなり有利な条件なのに、一つ目はそれでもいいと言ってエキスを分けてくれた。
《ふた月に一度、この場所へ繋がる扉の前に立って待っていてほしい。そこへ届けることにするよ》
「分かった。ありがとう」
完治は難しくてもそれで黒露の命を繋げるかもしれない。
「みんなのところへ戻らないと」
「そうだな」
《俺も店へ戻るとするよ。任せきりになっているし》
店主と話す白露と黒露、穂乃。
誰が連絡したのか、両手いっぱいに袋を持った陽向と桜良もこちらに向かってきている。
「先輩、お疲れ様です」
「お疲れ。楽しめたか?」
「はい!色々買えたし最高でした」
「そうか」
桜良の髪に簪が増えているのを見てほっこりした。
「いい子にしてたか?」
《ん……》
「さっきからずっとこんな感じだよ。多分眠いんだと思う」
先生と楽しそうに話す瞬と、少し眠そうな茜。
みんなが楽しめたならそれでいい。
…これから先もずっと楽しく過ごしたいなんて、贅沢な願いだろうか。
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