夜紅譚

黒蝶

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第27章『裏取引』

第247話

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《どこダ、ドこにいル……》
慎重に近づいていき、角に拳を食らわせた。
《ギャアア!》
この妖を観察していて気づいたことがある。
「この角に力が集中しているんだろ?」
《ナ、何故…》
角から鈍い光が溢れ出し、おそらく先程感じたものが間違っていなかったのだと理解する。
「見ていれば分かる」
相手はたしかに強い。
油断すればまたあの強烈なパンチを喰らうことになるだろう。
それでも約束したのだ。
「この街を荒らすなら、やっぱり出ていってもらうしかない」
《青い薔薇、青イ、薔薇…?》
襲われると思ったが、虚ろな目をこちらに向けてくる。
もしかすると、中毒症状が原因でもう寿命が短いのかもしれない。
「立てますか?」
《ウルざイ!》
相変わらず拳を振り回しているが、見事に全て外れている。
水をまきながら距離をとっているものの、少しでも音をたてればすぐ攻撃されてしまう。
《邪魔スルナラ消ス!オマエラ、ヤレ!》
《は、はい!》
《俺たちで消せバイい!》
狂気にあてられた妖も混ざっており、このままでは数で押されてしまいそうだ。
「…ごめん、先生」
怒られるのを覚悟で紅をさす。
ようやく組み立て終えた弓をかまえ、真っ直ぐ矢を放った。
《ギャアア!》
《い、嫌だ、死にたくない!》
《潰す潰ス潰す!》
様々な反応がかえってくるのを聞きながら、大声で宣言した。
「最終警告だ。死にたくないものはこの場から去れ。その場合、命は保証する。これから10分、こちらは一切攻撃しない。
これでもまだ引かないというなら死ぬ気でかかってこい。好きな方を決めるといい」
一瞬ざわついたが、狂気に呑まれた妖たちは戦う気満々だ。
だが、一部の妖たちは怯えた様子で去っていった。
《何をしテイる!?》
《俺たちは死にたくない。そもそも、こんなことしたくなかったんだ!》
攻撃されかけていたところに札を投げる。
「──燃えろ」
炎の壁で攻撃できないようにすると、妖は驚いた表情でこちらを見た。
《何故…》
「私はここに無駄な殺生をしに来たわけじゃない。誰のことも殺すつもりはないんだ」
《か、感謝する》
殺さないのを不思議に思われていることに違和感を覚えつつ、目の前の妖たちに目を向ける。
「もう10分経った。残りは戦うということでいいんだな?」
《やれるモンならやっテミろ!》
《コノ俺ガ、負ケルハズガナイ》
痺れる腕をふってどうにかこれ以上間隔を鈍らせないよう気をつけながら、静かに弓をかまえた。
この狭い場所でこの数…それに、先生の罠。
どうにか私の体力が持つうちにできることを祈りながら矢を放った。
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