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第27章『裏取引』
第244話
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地下に繋がる通路から声が響いてくる。
《大丈夫だ、ここに隠れていればやり過ごせる》
「でも、その怪我…」
《いいから黙っていろ》
一つ目の妖と穂乃がしゃがみこんでいるのが目に入った。
《あれだけ上等な霊力…喰らえばさぞ妖力も上がることだろう》
《美味そうなにおいがしてたもんな…》
急いで処理しなければ大変なことになるだろう。
「おまえたち、誰の許可を得てあの者らを追っている?」
《誰だおまえ?誰のものとも書かれていないのだから──》
思いきり拳をお見舞いすると、ひとりは勢いよく倒れた。
《な、なんだその力は…》
《あ、あれがおまえのものだと言うならそのガキを置いていけ》
「そんな真似をすると本気で思っているのか?」
《くそ、待て!》
隠れていた穂乃と目が合う。
「今だ!」
踵を返し地面をける。
しばらく走ったところで、水鉄砲が発射される音がした。
《な、く……》
茜を怯えさせないよう耳を塞いで抱っこする。
倒れている妖たちを跨いで穂乃が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
「怪我はないか?」
「うん。ありがとう…って、あれ?そんなに大きかったっけ?」
「さっき成長した」
《…あんた何者だ?》
一つ目の妖に軽く頭を下げる。
「妹を助けていただきありがとうございました。怪我の手当てをしたいところですが、ひとまず場所を変えましょう」
一旦外へ出てみると、灯りに照らされて怪我の酷さが際立っていた。
穂乃に茜を預け、妖の傷口を洗って消毒をすませる。
ガーゼをあてるとかなり顔をしかめていた。
「できました」
《正直助かった。最近治安が悪化しているのは知っていたが、まさかここまでとはな》
「そうなんですか?」
一つ目の妖の話によると、穏やかだった街が一転したのは狸の集団が近くに住みはじめてかららしい。
街に受け入れようという派と受け入れることに不安を感じている派で意見が割れているそうだ。
《狸たちは元々住んでいた里を追われてここまで来たんだ。
ここならば、夜市以外で他所から人が来ることはないからな》
「そうだったんですか」
《だが、不安派につけこもうと別の妖が入りこもうとしている。さっきの奴らもその一派さ》
不安が広がるということは、街ひとつ壊してしまえるほど力を持った妖がついている可能性が高い。
「その妖はどんな妖なんですか?」
《大きな角がふたつついていて、かなり体も大きい。
竜の一族というわけでもなさそうだが、大きさで言えばそれくらいある》
できれば出くわしたくない。
ただ、この街を放っておいていいのだろうか。
思考が逡巡していたとき、一つ目の妖に声をかけられた。
《申し訳ないが、手伝ってもらいたいことがある》
《大丈夫だ、ここに隠れていればやり過ごせる》
「でも、その怪我…」
《いいから黙っていろ》
一つ目の妖と穂乃がしゃがみこんでいるのが目に入った。
《あれだけ上等な霊力…喰らえばさぞ妖力も上がることだろう》
《美味そうなにおいがしてたもんな…》
急いで処理しなければ大変なことになるだろう。
「おまえたち、誰の許可を得てあの者らを追っている?」
《誰だおまえ?誰のものとも書かれていないのだから──》
思いきり拳をお見舞いすると、ひとりは勢いよく倒れた。
《な、なんだその力は…》
《あ、あれがおまえのものだと言うならそのガキを置いていけ》
「そんな真似をすると本気で思っているのか?」
《くそ、待て!》
隠れていた穂乃と目が合う。
「今だ!」
踵を返し地面をける。
しばらく走ったところで、水鉄砲が発射される音がした。
《な、く……》
茜を怯えさせないよう耳を塞いで抱っこする。
倒れている妖たちを跨いで穂乃が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
「怪我はないか?」
「うん。ありがとう…って、あれ?そんなに大きかったっけ?」
「さっき成長した」
《…あんた何者だ?》
一つ目の妖に軽く頭を下げる。
「妹を助けていただきありがとうございました。怪我の手当てをしたいところですが、ひとまず場所を変えましょう」
一旦外へ出てみると、灯りに照らされて怪我の酷さが際立っていた。
穂乃に茜を預け、妖の傷口を洗って消毒をすませる。
ガーゼをあてるとかなり顔をしかめていた。
「できました」
《正直助かった。最近治安が悪化しているのは知っていたが、まさかここまでとはな》
「そうなんですか?」
一つ目の妖の話によると、穏やかだった街が一転したのは狸の集団が近くに住みはじめてかららしい。
街に受け入れようという派と受け入れることに不安を感じている派で意見が割れているそうだ。
《狸たちは元々住んでいた里を追われてここまで来たんだ。
ここならば、夜市以外で他所から人が来ることはないからな》
「そうだったんですか」
《だが、不安派につけこもうと別の妖が入りこもうとしている。さっきの奴らもその一派さ》
不安が広がるということは、街ひとつ壊してしまえるほど力を持った妖がついている可能性が高い。
「その妖はどんな妖なんですか?」
《大きな角がふたつついていて、かなり体も大きい。
竜の一族というわけでもなさそうだが、大きさで言えばそれくらいある》
できれば出くわしたくない。
ただ、この街を放っておいていいのだろうか。
思考が逡巡していたとき、一つ目の妖に声をかけられた。
《申し訳ないが、手伝ってもらいたいことがある》
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