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第26章『新たな露』
第239話
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覚悟を決めた目だったが、初めて白露を見たときのようなこの世の終わりという表情ではない。
「…それなら賭けをしよう。これから私が放つ一撃に耐えられなかったらきっちりカタをつける。
耐えられたそのときは、私たちの仲間になってもらう。…立会人は白露だ」
《いいだろう》
チャンスは一度きり、やるなら今だ。
──鎮魂夜炎・夜空
《ア、アアア……》
できるだけ痛くないように、けれど確実に穢を祓うにはこれしかなかった。
全てが呑まれてしまう前に全てを消し去る。
《……白、私は、》
《今は何も言わなくていい。そのままもたれかかっていろ》
どうにか全てを消し飛ばせたらしいが、これだけでは終われない。
彼女の体が透けはじめている。
《ここまで、ですか》
《それは違う。自由になったらやりたいことが沢山あるのだろう?
記録としてまとめていたのも知っている。…まだ海を見に行っていない》
《あなたがいなくなって、とても寂しかった。…もう会えないと思っていたのに、今この瞬間触れ合えるだけでも奇跡です》
にっこり微笑む彼女はとても美しいが、すぐに散ってしまいそうなほど儚げだ。
「…ちょっとごめん」
1枚だけ用意しておいた、攻撃用ではなく純粋な霊力をこめた札。
それを彼女の額に貼りつけた。
《これは…》
「一時的に私の霊力を注ぎこんでいる。…陽向、聞こえるか?」
『すみません、途中で邪魔が入って…急ぎます!』
「分かった。できるだけ急いでくれ」
油断すれば意識を飛ばしてしまいそうななか、なんとか踏んばる。
このふたりを離れ離れになんてさせない。
だが、思ったより怪我が酷いのか血の気が引いていくのが分かる。
《…夜紅》
「まだやれる。というか、穂乃が来るまでやめる気はない」
《しかし、》
「私は大丈夫だから、その子の体を絶対に離すな」
札が半分ほど消失してしまっている。
もしこのまま間に合わなかったら…なんてことは考えない。
陽向たちなら絶対に間に合わせてくれるから。
《…白は、新しい名をもらったのですね》
《成り行きだったがな。…今、俺の周りは騒がしい。見たことがない反応ばかりで戸惑ってばかりだ》
《優しい方に拾われたんですね》
少しずつ呼吸が荒くなっている。
限界まで霊力を流しこむしかないだろうか。
「お姉ちゃん!」
「先輩!」
ふたりが駆け寄ってきたのを見て安堵する。
「ごめん。後を頼んでいいか?」
「お姉ちゃんは?」
「戦いに行くわけじゃない。…先生に知らせに行くだけだ」
先生は瞬と茜を護るための結界をはっているはずだ。
少しは休まないと大変なことになる。
「先生、終わった」
「え、詩乃ちゃん!?」
頭がくらくらするなか歩き回ったからか、そのまま意識を手放した。
「…それなら賭けをしよう。これから私が放つ一撃に耐えられなかったらきっちりカタをつける。
耐えられたそのときは、私たちの仲間になってもらう。…立会人は白露だ」
《いいだろう》
チャンスは一度きり、やるなら今だ。
──鎮魂夜炎・夜空
《ア、アアア……》
できるだけ痛くないように、けれど確実に穢を祓うにはこれしかなかった。
全てが呑まれてしまう前に全てを消し去る。
《……白、私は、》
《今は何も言わなくていい。そのままもたれかかっていろ》
どうにか全てを消し飛ばせたらしいが、これだけでは終われない。
彼女の体が透けはじめている。
《ここまで、ですか》
《それは違う。自由になったらやりたいことが沢山あるのだろう?
記録としてまとめていたのも知っている。…まだ海を見に行っていない》
《あなたがいなくなって、とても寂しかった。…もう会えないと思っていたのに、今この瞬間触れ合えるだけでも奇跡です》
にっこり微笑む彼女はとても美しいが、すぐに散ってしまいそうなほど儚げだ。
「…ちょっとごめん」
1枚だけ用意しておいた、攻撃用ではなく純粋な霊力をこめた札。
それを彼女の額に貼りつけた。
《これは…》
「一時的に私の霊力を注ぎこんでいる。…陽向、聞こえるか?」
『すみません、途中で邪魔が入って…急ぎます!』
「分かった。できるだけ急いでくれ」
油断すれば意識を飛ばしてしまいそうななか、なんとか踏んばる。
このふたりを離れ離れになんてさせない。
だが、思ったより怪我が酷いのか血の気が引いていくのが分かる。
《…夜紅》
「まだやれる。というか、穂乃が来るまでやめる気はない」
《しかし、》
「私は大丈夫だから、その子の体を絶対に離すな」
札が半分ほど消失してしまっている。
もしこのまま間に合わなかったら…なんてことは考えない。
陽向たちなら絶対に間に合わせてくれるから。
《…白は、新しい名をもらったのですね》
《成り行きだったがな。…今、俺の周りは騒がしい。見たことがない反応ばかりで戸惑ってばかりだ》
《優しい方に拾われたんですね》
少しずつ呼吸が荒くなっている。
限界まで霊力を流しこむしかないだろうか。
「お姉ちゃん!」
「先輩!」
ふたりが駆け寄ってきたのを見て安堵する。
「ごめん。後を頼んでいいか?」
「お姉ちゃんは?」
「戦いに行くわけじゃない。…先生に知らせに行くだけだ」
先生は瞬と茜を護るための結界をはっているはずだ。
少しは休まないと大変なことになる。
「先生、終わった」
「え、詩乃ちゃん!?」
頭がくらくらするなか歩き回ったからか、そのまま意識を手放した。
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