夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
279 / 309
第26章『新たな露』

第231話

しおりを挟む
「相棒がいたってことか?」
私の問いに白露は小さく頷く。
いくら契約があるとはいえ、何故そこまで劣悪な状況で狂わずにいられたのか疑問だった。
その答えを、これからの白露の話で知ることになるだろう。
《契約の本代には世話になったが、それ以降の人間はくだらない。…それでもあいつは、人間を攻撃すべきでないと俺を止めた》
「その子はどうなったんだ?」
《あいつは俺と違って霊力を喰わないからな。…今も捕らえられているだろう》
時折見せる寂しげな様子もぼんやり月を眺める姿も、対の式について思い出していたのかもしれない。
「どうしたい?」
《…俺が決めていいのか?》
「話を聞く限り、その式はいい子でいただけで逃げたがってるように思う。助けに行きたいなら私にも手伝わせてほしい」
《…あいつは自由になれたら海が見たいと話していた。だが、もしあいつが堕ちていたら…》
「相手の状況が分かるのか?」
対の式はシンクロしていることもある。
何かを感じるから白露が焦っているのかもしれない。
《この星光刀はあいつのものと対になっている。黒い刀身と鞘…それと、姿も黒い》
「その刀、星光刀せいこうとうっていうんだな」
《…あいつが持っているのは月闇刀、闇のなかに一筋の光を灯すような一撃を放つ。だが、本質は護りに特化している》
星光刀と月闇刀げついんとう…やはり名前からして対になっている。
「どこにいるか分かるか?」
《…最近、気配が近づいたのを感じた》
「捨てられた可能性があるってことか?」
白露は力なく頷くばかりで、とても悲しそうにしている。
だが、他に気になることがあった。
「…その子って、あの子か?」
《あれは…》
生徒に近づいている邪気。
あの量は明らかに人間じゃない。
「ちょっといってくる」
いつの間にか生徒から離れたそれは、真っ直ぐ瞬の方へ走り出した。
「詩乃ちゃん?」
「おはよう。それと、彼女とは私が話す」
瞬の胸ポケットにいる茜を指さしながら、相手ははっきり言った。
《ウ、アア……逃げテ、くだサイ》
泣きながら刀を抜く彼女に何ができるだろうか。
朝に出し切れる力は少ない。
まだ傷が痛むし、無理をすれば耐えられないだろう。
…それでも。
「早く行け、瞬!先生のところまで逃げろ」
瞬が走り出すと同時に、その刃を札で止める。
《持ち帰ル?…私にハデきまセん》
「止まってくれ。じゃないと、おまえを傷つけることになる」
彼女の体を覆う邪気が濃くなり、胸を押さえて苦しみはじめた。
《お願い、しマス。……タスケテ》
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ピアノの家のふたりの姉妹

九重智
ライト文芸
【ふたりの親愛はピアノの連弾のように奏でられた。いざもう一人の弾き手を失うと、幸福の音色も、物足りない、隙間だらけのわびしさばかり残ってしまう。】 ピアノの響く家には、ふたりの姉妹がいた。仲睦ましい姉妹は互いに深い親愛を抱えていたが、姉の雪子の変化により、ふたりの関係は徐々に変わっていく。 (縦書き読み推奨です)

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

神守君とゆかいなヤンデレ娘達

田布施月雄
ライト文芸
僕、神守礼は臆病だ。 周りにこんなに美人な女性に囲まれて何もできないなんて・・・・ 不幸だ、不幸すぎる。 普通は『なんて幸せなんだろう』とそう思うよね?思うでしょ? その状況だけだったら僕もそう思うんだ。 ・・・・でも君たちは彼女らの怖さを知らないから。 彼女たちがヤンデレだったらどうする。 僕を巡ってヤンデレ娘達が暴れまくる、ラブコメドタバタストーリー。 果たして僕は彼女らをうまくなだめられるだろうか? <この作品は他でも連載中>

君の記憶が消えゆく前に

じじ
ライト文芸
愛盗病…それは深く愛した人を一年かけてゆっくり忘れていく病気。発症者本人がそのことに気づけないため、愛を盗む病といわれている。 発症して、一年経つと、愛した人を完全に忘れてしまうとともに、発症者は命を落とす。 桜井美弥。僕の愛した唯一の女性。僕の人生から彼女が消えるなど…彼女の記憶から僕が消えるなど…考えたことすらなかった。

都市伝説レポート

君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

揺れる波紋

しらかわからし
ライト文芸
この小説は、高坂翔太が主人公で彼はバブル崩壊直後の1991年にレストランを開業し、20年の努力の末、ついに成功を手に入れます。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって、経済環境が一変し、レストランの業績が悪化。2014年、創業から23年の55歳で法人解散を決断します。 店内がかつての賑わいを失い、従業員を一人ずつ減らす中、翔太は自身の夢と情熱が色褪せていくのを感じます。経営者としての苦悩が続き、最終的には建物と土地を手放す決断を下すまで追い込まれます。 さらに、同居の妻の母親の認知症での介護が重なり、心身共に限界に達した時、近所の若い弁護士夫婦との出会いが、レストランの終焉を迎えるきっかけとなります。翔太は自分の決断が正しかったのか悩みながらも、恩人であるホテルの社長の言葉に救われ、心の重荷が少しずつ軽くなります。 本作は、主人公の長年の夢と努力が崩壊する中でも、新たな道を模索し、問題山積な中を少しずつ幸福への道を歩んでいきたいという願望を元にほぼ自分史の物語です。

処理中です...