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第26章『新たな露』
第230話『霧に紛れ』
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あいつの気配が近くなるのを感じる。
短冊が願いを叶えたのか、はじめからこうなることが決まっていたのか。
…だが、目の前に立っているそいつから目を逸らせない。
《……何故ここにいる?》
《やっぱり、処分されていなかったんですね》
《逃げてきたのか?》
《いいえ。だって私は……》
その瞬間、炎がそいつを囲んた。
《──もうすぐ散ってしまうもの》
「白露?大丈夫?」
どうやら夢だったらしい。
主があまりに不安げな表情でこちらを見るので頭を撫でた。
《問題ない》
「私の力が弱まってるとか?それとも、ご飯が美味しくなかったとか…」
《そういうわけではない。…少し、夢を見ていただけだ。それより、このままでは遅刻するのではないか?》
「あ、そうだった!お姉ちゃんを待たせちゃってるし…。
あの…白露の手、すごく温かいね。すごくほっとする」
他の人間がこうしているのを見ていたため咄嗟にとった行動だったが、主は楽しそうにしていた。
「おはよう。白露が寝坊なんて珍しいな。疲れているんじゃないか?」
《…別に、そんなことはない》
「休むのも大事だし、たまには休息をとってくれ」
《…おまえがそれを言うのか》
包帯だらけの夜紅は、少し食べづらそうにしている。
そんな様子を見ていた主は心配そうに夜紅に視線を向けた。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫なの?」
「ああ。問題ない。見た目ほど酷くないから」
夜紅はそう言って笑っていたが、おそらく痛みを隠している。
…俺よりずっと問題だろう。
「久しぶりに一緒に行こうか」
「うん!」
こうして、いつもどおり学校まで時間をかけて向かった。
「おはようございます。今週の報告分って…」
「折原さん、こっちのボックスをお願いしてもいい?」
「はい!」
主に害を及ぼすものはいなさそうだ。
旧校舎と呼ばれる場所を散策していると、苦しげな声が耳に入った。
《…夜紅》
「白露か。ごめん、なんでもないから…」
《そんなはずないだろう》
鞄から薬が出てきたため、それを渡す。
「…ありがとう。ちょっと落ち着いたよ」
《そうか》
夜紅は押さえていた腕から手を離し、まっすぐこちらへ伸ばす。
頭に触れられたが不快感はなかった。
「…何か悩みごとがあるんだろ?ずっと分かってはいたけど、聞いちゃいけないと思った。
けどもし、話してもいいと思ってくれるなら教えてくれないか?」
寝坊というものをしたことがなかった。
そういった状況からも察知されてしまったのだろう。もう隠し通せない。
…身の上を語るのは得意ではないが、思うまま話してみることにした。
《…俺には対の式がいる。今朝の夢にそいつが出てきただけだ》
短冊が願いを叶えたのか、はじめからこうなることが決まっていたのか。
…だが、目の前に立っているそいつから目を逸らせない。
《……何故ここにいる?》
《やっぱり、処分されていなかったんですね》
《逃げてきたのか?》
《いいえ。だって私は……》
その瞬間、炎がそいつを囲んた。
《──もうすぐ散ってしまうもの》
「白露?大丈夫?」
どうやら夢だったらしい。
主があまりに不安げな表情でこちらを見るので頭を撫でた。
《問題ない》
「私の力が弱まってるとか?それとも、ご飯が美味しくなかったとか…」
《そういうわけではない。…少し、夢を見ていただけだ。それより、このままでは遅刻するのではないか?》
「あ、そうだった!お姉ちゃんを待たせちゃってるし…。
あの…白露の手、すごく温かいね。すごくほっとする」
他の人間がこうしているのを見ていたため咄嗟にとった行動だったが、主は楽しそうにしていた。
「おはよう。白露が寝坊なんて珍しいな。疲れているんじゃないか?」
《…別に、そんなことはない》
「休むのも大事だし、たまには休息をとってくれ」
《…おまえがそれを言うのか》
包帯だらけの夜紅は、少し食べづらそうにしている。
そんな様子を見ていた主は心配そうに夜紅に視線を向けた。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫なの?」
「ああ。問題ない。見た目ほど酷くないから」
夜紅はそう言って笑っていたが、おそらく痛みを隠している。
…俺よりずっと問題だろう。
「久しぶりに一緒に行こうか」
「うん!」
こうして、いつもどおり学校まで時間をかけて向かった。
「おはようございます。今週の報告分って…」
「折原さん、こっちのボックスをお願いしてもいい?」
「はい!」
主に害を及ぼすものはいなさそうだ。
旧校舎と呼ばれる場所を散策していると、苦しげな声が耳に入った。
《…夜紅》
「白露か。ごめん、なんでもないから…」
《そんなはずないだろう》
鞄から薬が出てきたため、それを渡す。
「…ありがとう。ちょっと落ち着いたよ」
《そうか》
夜紅は押さえていた腕から手を離し、まっすぐこちらへ伸ばす。
頭に触れられたが不快感はなかった。
「…何か悩みごとがあるんだろ?ずっと分かってはいたけど、聞いちゃいけないと思った。
けどもし、話してもいいと思ってくれるなら教えてくれないか?」
寝坊というものをしたことがなかった。
そういった状況からも察知されてしまったのだろう。もう隠し通せない。
…身の上を語るのは得意ではないが、思うまま話してみることにした。
《…俺には対の式がいる。今朝の夢にそいつが出てきただけだ》
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