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第25章『アイス・グラウンド』
第228話
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「迎えに来たぞ!しほり、どこにいるんだ!?」
──まずい。
そう思ったがどうしようもなかった。
氷の檻からそそくさと出て、外にいた男に声をかける。
《伊東君、見つけた》
「誰だよおまえ、なんで白川の格好…まさか、白川?」
《そうだよ。あなたたちに殺された、愚かな白川》
「はっ、死んでまでつきまといかよ」
できるだけ人間には関わりたくないが、そんな我儘を押し通せる状況ではない。
「逃げろ!」
「はあ?あんた何言って──」
《駄目。練習にはちゃんと参加しないと》
男の体はいつの間にか現れていた氷の扉に引きこまれ、中から悲鳴が聞こえてくる。
そこに近づくことさえできずにいると、倒れている陽向と氷漬けから半分ほど解放された女子生徒が倒れていた。
「あの男に何をした?」
《…私は、誰かを殺したりしたいわけじゃない。真面目に練習してくれたらそれでいい》
「氷上の体育祭ってことか」
少女は満足げに頷く。
《……あなたが優しくしてくれたから、残りの人間は真面目に練習したら解放する。
私を突き飛ばしておいて、勝手に転んだって口裏を合わせて…怒ってないはずないでしょ。
お姉ちゃんにいいところを見せたかったのに、それも叶わなかった》
「…姉の立場で言わせてもらうと、妹が傷つくのが1番嫌なんだ。幸せになって欲しいって願うものだと思う」
彼女の恨みの全てを知るわけではない私に言えるのはこれだけだ。
《…あなた、お姉さんなの?》
「ああ」
《私にも姉がいるの。今はどうしているか分からないけど…》
「今でも入退院を繰り返しているらしい」
白川先生から聞いた情報を伝えると、納得したように呟いた。
《手を出されているのを見て絶えられなかったのは、姉の娘さんだからだったんだ》
少し寂しげな様子のその人は、ただの少女と変わらない。
ただ、力の制御ができないらしくあたりが白んでいく。
《…もういい。殺して》
「分かった。終わらせよう」
残った力でなんとか噂から開放し、成仏の光に包まれていく少女を見送る。
《もし姉に会えたら伝えて。…もう怖いことはおこらないって》
「会えたら伝えておくよ」
白川こよりは優しい笑みを浮かべ、そのまま消えてしまった。
「…よかった。間に合った」
体力の限界がきたらしく、氷のグラウンドが溶けていくと同時に全身から力が抜ける。
もう立てそうにない。
もしこのまま氷が崩れたらどうなるだろう。
色々頭をはたらかせてみたが結局名案は浮かばず、意識はそのまま冷たい暗闇へ落ちていった。
──まずい。
そう思ったがどうしようもなかった。
氷の檻からそそくさと出て、外にいた男に声をかける。
《伊東君、見つけた》
「誰だよおまえ、なんで白川の格好…まさか、白川?」
《そうだよ。あなたたちに殺された、愚かな白川》
「はっ、死んでまでつきまといかよ」
できるだけ人間には関わりたくないが、そんな我儘を押し通せる状況ではない。
「逃げろ!」
「はあ?あんた何言って──」
《駄目。練習にはちゃんと参加しないと》
男の体はいつの間にか現れていた氷の扉に引きこまれ、中から悲鳴が聞こえてくる。
そこに近づくことさえできずにいると、倒れている陽向と氷漬けから半分ほど解放された女子生徒が倒れていた。
「あの男に何をした?」
《…私は、誰かを殺したりしたいわけじゃない。真面目に練習してくれたらそれでいい》
「氷上の体育祭ってことか」
少女は満足げに頷く。
《……あなたが優しくしてくれたから、残りの人間は真面目に練習したら解放する。
私を突き飛ばしておいて、勝手に転んだって口裏を合わせて…怒ってないはずないでしょ。
お姉ちゃんにいいところを見せたかったのに、それも叶わなかった》
「…姉の立場で言わせてもらうと、妹が傷つくのが1番嫌なんだ。幸せになって欲しいって願うものだと思う」
彼女の恨みの全てを知るわけではない私に言えるのはこれだけだ。
《…あなた、お姉さんなの?》
「ああ」
《私にも姉がいるの。今はどうしているか分からないけど…》
「今でも入退院を繰り返しているらしい」
白川先生から聞いた情報を伝えると、納得したように呟いた。
《手を出されているのを見て絶えられなかったのは、姉の娘さんだからだったんだ》
少し寂しげな様子のその人は、ただの少女と変わらない。
ただ、力の制御ができないらしくあたりが白んでいく。
《…もういい。殺して》
「分かった。終わらせよう」
残った力でなんとか噂から開放し、成仏の光に包まれていく少女を見送る。
《もし姉に会えたら伝えて。…もう怖いことはおこらないって》
「会えたら伝えておくよ」
白川こよりは優しい笑みを浮かべ、そのまま消えてしまった。
「…よかった。間に合った」
体力の限界がきたらしく、氷のグラウンドが溶けていくと同時に全身から力が抜ける。
もう立てそうにない。
もしこのまま氷が崩れたらどうなるだろう。
色々頭をはたらかせてみたが結局名案は浮かばず、意識はそのまま冷たい暗闇へ落ちていった。
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