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第25章『アイス・グラウンド』
第227話
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「陽向、聞こえるか?」
『通信は、なんとか。でも、先輩の声、遠いですね』
「絶対に寝るな。必ず見つける」
一歩進む度氷にひびが入る音が反響する。
しばらく道なりに進んでいたが、似たような場所ばかりで迷子になりそうだ。
「陽向、聞こえるか?」
『いや…流石に、ですね』
だいぶ奥まで来たはずなのに、全然近づいてる気がしない。
「…ごめん。ちょっと熱いかもしれない」
『へ?』
火炎刃を作り出し、大量の氷に傷をつけていく。
「……っ、ごほ!」
冷たい空気は肺まで凍らせるほどの寒さで、その場に座りこみそうになる。
だが、陽向はこれ以上に苦しんでいるはずだ。
早く行かなければ大変なことになる。
《……》
「どうしてこんなことをするんだ」
《分からない?歴史は繰り返すから》
少女の足元には氷の粒が散らばっており、とても近づけそうにない。
「憎しみは理解できる。けど、そんなことをして何になる?
…結局、おまえが苦しむことになるだけなんじゃないか?」
《うるさい!》
氷の刃のようなものがこちらに迫ってくる。
そちらに気を取られていると、大量のつららが頭上から降ってきた。
『先輩、今の、音…』
「絶対行くから」
腕があがらないし、脇腹は痛いし、足の感覚がもうない。
それでも走り続けるしかないのだ。
「陽向!」
ようやく見つけたその場所にいたのは、氷像と化した女子生徒と顔が白くなった陽向だった。
「陽向、起きられるか?」
「…あ、先輩」
下手な燃やし方をすれば、確実に女子生徒を殺してしまう。
だから、今できるのは防寒具とカイロで温まってもらうことだけだ。
「外に出たら桜良の料理が待ってる」
「桜良のスープ…」
「その言い方だと桜良がスープにされてるぞ」
そのまま逃げようと思ったが、長髪に氷を絡ませながら追いかけてきた。
「もう誰も恨まなくていいんだよ。…白川こよみさん」
《でも、止められないの。それに、あいつらは…》
「憎んだ相手にあたっても、何も戻りはしない」
やはり噂のせいで揺れ動いているのか、氷の粒が飛んできたり冷静になったりを繰り返している。
《彼女たちを呼んで。土下座で謝ったら許してあげるかもしれない》
「口実がないと保護者を呼び出すのは難しい」
《大丈夫。そろそろ来る頃だから》
「…この子たちがしたことが許せないことは分かる。けど、こんな奴らのためにおまえが苦しい思いをする必要ないんじゃないか?」
《…この状況でも、私の心配をしてくれるの?》
「当たり前だろ」
指の感覚があるうちにどうにかしたい。
限界寸前であろう陽向に声をかけた。
「ここから逃げろ。あと、そいつを連れていけそうなら外へ」
「…無理、しないでください」
「うん」
陽向が出ていった後、目の前の少女の髪を思い切り掴んだ。
…どうしてくれようか。
『通信は、なんとか。でも、先輩の声、遠いですね』
「絶対に寝るな。必ず見つける」
一歩進む度氷にひびが入る音が反響する。
しばらく道なりに進んでいたが、似たような場所ばかりで迷子になりそうだ。
「陽向、聞こえるか?」
『いや…流石に、ですね』
だいぶ奥まで来たはずなのに、全然近づいてる気がしない。
「…ごめん。ちょっと熱いかもしれない」
『へ?』
火炎刃を作り出し、大量の氷に傷をつけていく。
「……っ、ごほ!」
冷たい空気は肺まで凍らせるほどの寒さで、その場に座りこみそうになる。
だが、陽向はこれ以上に苦しんでいるはずだ。
早く行かなければ大変なことになる。
《……》
「どうしてこんなことをするんだ」
《分からない?歴史は繰り返すから》
少女の足元には氷の粒が散らばっており、とても近づけそうにない。
「憎しみは理解できる。けど、そんなことをして何になる?
…結局、おまえが苦しむことになるだけなんじゃないか?」
《うるさい!》
氷の刃のようなものがこちらに迫ってくる。
そちらに気を取られていると、大量のつららが頭上から降ってきた。
『先輩、今の、音…』
「絶対行くから」
腕があがらないし、脇腹は痛いし、足の感覚がもうない。
それでも走り続けるしかないのだ。
「陽向!」
ようやく見つけたその場所にいたのは、氷像と化した女子生徒と顔が白くなった陽向だった。
「陽向、起きられるか?」
「…あ、先輩」
下手な燃やし方をすれば、確実に女子生徒を殺してしまう。
だから、今できるのは防寒具とカイロで温まってもらうことだけだ。
「外に出たら桜良の料理が待ってる」
「桜良のスープ…」
「その言い方だと桜良がスープにされてるぞ」
そのまま逃げようと思ったが、長髪に氷を絡ませながら追いかけてきた。
「もう誰も恨まなくていいんだよ。…白川こよみさん」
《でも、止められないの。それに、あいつらは…》
「憎んだ相手にあたっても、何も戻りはしない」
やはり噂のせいで揺れ動いているのか、氷の粒が飛んできたり冷静になったりを繰り返している。
《彼女たちを呼んで。土下座で謝ったら許してあげるかもしれない》
「口実がないと保護者を呼び出すのは難しい」
《大丈夫。そろそろ来る頃だから》
「…この子たちがしたことが許せないことは分かる。けど、こんな奴らのためにおまえが苦しい思いをする必要ないんじゃないか?」
《…この状況でも、私の心配をしてくれるの?》
「当たり前だろ」
指の感覚があるうちにどうにかしたい。
限界寸前であろう陽向に声をかけた。
「ここから逃げろ。あと、そいつを連れていけそうなら外へ」
「…無理、しないでください」
「うん」
陽向が出ていった後、目の前の少女の髪を思い切り掴んだ。
…どうしてくれようか。
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