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第25章『アイス・グラウンド』
第225話
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「ありがとうございました」
「私に分かるのはこれだけだけど、参考になった?」
「充分です」
これ以上深堀りするのはよくないだろうし、やるべきことは見えてきた。
「桜良、事件について調べてほしいことがある」
桜良はすぐ教えてくれた。
「ありがとう。助かったよ」
今いる場所からそんなに離れていなかったため、そのまま現場へ向かう。
…白川先生が新校舎へ戻るのを確認した後で。
「…ここか」
床板の色が違う階段。
普段はあまり来ない場所だが、白川こよりが亡くなった場所のようだ。
誰もいなかったら立ち去るつもりだったが、階段に座りこんでいる人影が視界に入った。
「…あの、もしかして体調が悪いんですか?」
《大丈夫です》
今のところ、普通に会話できるらしい。
見た目ですぐ生きている人間ではないことは理解した。
ただ、彼女がどういった存在なのか謎だ。
「水分補給はしっかりした方がいいですよ。倒れたらいけませんから」
持っていたペットボトルを差し出すと、少女は私の手から受け取ってくれた。
《あなた、何者?》
「通りすがりの者です」
《…そう》
彼女が凍らせたようには思えないが、噂と見た目は合致している。
「髪、梳いてもいいですか?」
《私の?》
「はい。…失礼します」
買ったばかりの櫛があったため、階段に腰掛けてもらって梳かせてもらう。
ふわふわの髪は綺麗に手入れされているようだったが、所々傷んでいた。
「ちょっとかけますね」
《何を?》
ヘアオイルを持ち歩いていてよかった。
鏡を渡すと、無垢な少女は自分の髪を見て驚いている。
《あんなに傷んでいたのに…》
「オイルを使ったらダメージが軽減されるみたいです。…よかったら持っていってください。
自分専用のブラシは持っているし、あなたに使ってもらえると嬉しいです」
そのまま立ち去ろうとすると袖を掴まれた。
《…願掛けのために伸ばしているの。姉の体が悪くて、その病気が治るようにって。
だけど、一定の長さで切らないと効果が薄れるから…。あなたは私を気味悪がらないの?》
彼女の目は真剣だ。
それが蔑まれる一因となり、小馬鹿にされていたようだと資料を読んだ桜良が知らせてくれた。
「気味が悪いなんて思わない。願掛けとはいえ、そこまで髪を伸ばすにはかなり時間がかかっているはずだから」
《優しいのね》
「…もう行かないと」
こんなに優しく微笑む人が、理由もなく人間を害そうとするはずがない。
どうしても止めたかった。
《…駄目》
「え?」
直後、目の前から少女の姿が消え、代わりに悲鳴が響きわたる。
声がする方へ駆け出すと、足が凍った男子生徒が震えていた。
「私に分かるのはこれだけだけど、参考になった?」
「充分です」
これ以上深堀りするのはよくないだろうし、やるべきことは見えてきた。
「桜良、事件について調べてほしいことがある」
桜良はすぐ教えてくれた。
「ありがとう。助かったよ」
今いる場所からそんなに離れていなかったため、そのまま現場へ向かう。
…白川先生が新校舎へ戻るのを確認した後で。
「…ここか」
床板の色が違う階段。
普段はあまり来ない場所だが、白川こよりが亡くなった場所のようだ。
誰もいなかったら立ち去るつもりだったが、階段に座りこんでいる人影が視界に入った。
「…あの、もしかして体調が悪いんですか?」
《大丈夫です》
今のところ、普通に会話できるらしい。
見た目ですぐ生きている人間ではないことは理解した。
ただ、彼女がどういった存在なのか謎だ。
「水分補給はしっかりした方がいいですよ。倒れたらいけませんから」
持っていたペットボトルを差し出すと、少女は私の手から受け取ってくれた。
《あなた、何者?》
「通りすがりの者です」
《…そう》
彼女が凍らせたようには思えないが、噂と見た目は合致している。
「髪、梳いてもいいですか?」
《私の?》
「はい。…失礼します」
買ったばかりの櫛があったため、階段に腰掛けてもらって梳かせてもらう。
ふわふわの髪は綺麗に手入れされているようだったが、所々傷んでいた。
「ちょっとかけますね」
《何を?》
ヘアオイルを持ち歩いていてよかった。
鏡を渡すと、無垢な少女は自分の髪を見て驚いている。
《あんなに傷んでいたのに…》
「オイルを使ったらダメージが軽減されるみたいです。…よかったら持っていってください。
自分専用のブラシは持っているし、あなたに使ってもらえると嬉しいです」
そのまま立ち去ろうとすると袖を掴まれた。
《…願掛けのために伸ばしているの。姉の体が悪くて、その病気が治るようにって。
だけど、一定の長さで切らないと効果が薄れるから…。あなたは私を気味悪がらないの?》
彼女の目は真剣だ。
それが蔑まれる一因となり、小馬鹿にされていたようだと資料を読んだ桜良が知らせてくれた。
「気味が悪いなんて思わない。願掛けとはいえ、そこまで髪を伸ばすにはかなり時間がかかっているはずだから」
《優しいのね》
「…もう行かないと」
こんなに優しく微笑む人が、理由もなく人間を害そうとするはずがない。
どうしても止めたかった。
《…駄目》
「え?」
直後、目の前から少女の姿が消え、代わりに悲鳴が響きわたる。
声がする方へ駆け出すと、足が凍った男子生徒が震えていた。
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