夜紅譚

黒蝶

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第25章『アイス・グラウンド』

第219話

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「助かった」
「いい子にしてたぞ。今は寝てるけど」
先生が外へ出ている間、茜の面倒を見させてもらった。
最近はあやとりにはまっているらしく、かなり小さな円状にした糸を結んだりほどいたりしている。
握ったままになった糸を離させて、先生は疲れた様子で腰掛けた。
「体育祭の準備、上手くいってないのか?」
「いや。寧ろ静かすぎて変だ」
たしかに、何かしら噂が流行ってもおかしくないのに妖たちすら噂ひとつしていない。
「そういえば、これ」
「……あ」
特に目指しているものもない私は、卒業しても学園の旧校舎に入れる仕事はないか先生に相談していた。
「この前、民間の資格を受けたって言ってただろ?不登校や定時・夜間の生徒のサポート職を作るらしい。
おまえさえよければ、副校長に書類を出しておく」
「お願いしてもいいかな?教師ってがらじゃないし、あとは清掃の手伝いができればと思っていたから…」
「……そうなれば少しバイトも減らせるだろ」
私が通っている学科は3年まで、つまりあと1年で今のバイトを半分以下に減らさなければならない。
「ちょっと寂しいな」
「流石に体を壊すぞ」
「そうだな」
花屋に喫茶店、保護猫カフェと楽器屋と夜の書店…抜けて大丈夫そうなのは前者ふたつだ。
あとは楽器屋のシフトを減らしてもらえるか相談してみるしかない。
「決めた」
「いいのか?」
「ああ。副業禁止じゃないよな?」
「公務員扱いにならないから問題ない」
「分かった。バイト先に話をつけておくよ」
少し寂しくも思うが、他人と関わる仕事に就くならそこを1番に考えなければならない。
「…私にできるかな」
「悩んでるとき、ただ隣にいてくれる奴が必要なことがある。おまえは向いてる。
踏みこんでいい部分とそうじゃない部分をよく分かっているから」
「…そう言ってもらえるならやってみる」
自分がやりたいことなんて考えたこともなかった。
どうにか穂乃に苦労をかけないように、できるだけ人と関わらず…そう考えていた。
今は少し肩の力が抜けているが、人間じゃない体になった以上更に先のことも考えなければならない。
「おい、なんだあれ」
「見てみろよ、まじでやばいって」
外がやけに騒がしい。
寝ている茜に布団をかけ、一旦新校舎へ向かう。
「先輩、あれ…」
陽向が指さす方を見ると、グラウンドが一面雪景色になっていた。
まだまだ猛暑日が続いているにもかかわらず、だ。
「落ち着いて、今日の部活は終わりにします」
「全員下校!誰か放送室行って強制下校だってアナウンスしてもらってくれ」
誰かがいるわけでもない。
今できることはないと判断し、陽向とともに放送室へ急いだ。
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