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第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』
第217話
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「……というわけで、結月の話によると相当狂った相手らしい」
陽向と桜良に説明すると、思わず苦笑が零れた。
「その妖が陽向を襲ったんですか?」
「おそらく。ほぼ不死の体質じゃなかったら、今頃死ぬまで狂ったように暴走し続けていたかもしれない」
「それって生き地獄ですね。というより、もはや生きてるって言えるのかも怪しいし…」
結月の話によると、狂った人間の魂を極上の供物として捧げる一族がいるらしい。
敬う様子も見られず、狂人と化した人間たちを利用している…つまり、奴の目的は豊穣の巫女を狂わせることということになる。
「豊穣の巫女だって元は人間だ。極上の味だと思ったんじゃないか?」
「そうかもしれません。…計画は杜撰ですが欲望に忠実とも言えます」
純粋な貪欲さを持っているのなら、人間らしい妖ともいえるのかもしれない。
「話し合いでの解決は難しいかもしれない。今夜現れたら強行突破する」
「俺が潜入しましょうか?」
「いや、相手に顔が知られている私が行った方がいいだろう。それに、陽向を狙うとしたら厄介な妖の方だろう」
「それも嫌ですね…」
桜良が青い顔でネット掲示板の画面を開く。
「ネット掲示板で噂になっています。…人喰い奇術師だって」
「怪異になったってことか…」
妖が怪異状態になったとき、ものすごい力を発揮することがある。
その代わり、噂に絶対逆らえない。
「放っておくわけにはいかないな」
「じゃあ俺は奇術師の洗脳にかかったふりをします。ああいう系のはかからないので」
陽向は催眠や洗脳攻撃にかなり強い耐性を持っている。
このまま任せた方がいいだろう。
「分かった。それなら私はもう一度豊穣の巫女のところへ出向く。桜良にはサポートをお願いしたい」
「分かりました」
一旦解散して夜になるのを待ち、再び禁忌の場に足を踏み入れた。
先生が別の面を用意してくれたおかげで気づかれていないようだ。
《私は魚を釣ってきた》
《俺は上等な反物を用意した。気に入っていただけるといいが》
巫女の舞がはじまり、途端に周囲が静寂に包まれる。
羨望の眼差しを向ける者もいれば、あまりの眩しさからか目を背けている者もいた。
「昨日のやつが見当たらない」
「そうだな。けど、諦めて引き下がるタイプじゃないだろ?」
「ああ。今夜は更に上等なものを持ってくるだろうからな」
先生と小声で話しているうちに舞が終わったらしい。
拍手喝采状態のなか、背後の扉が開かれた。
《遅れてしまい、大変申し訳ありません。今夜こそ献上品を受け取っていただきます》
よだれを垂らしたまま口を半開きにしている人間が複数と、ぼろ布を被った何かが奇術師に抱えられている。
《昨夜あんなことになったのに…ぎゃあ!》
奇術師は迷うことなく妖を攻撃した。
怯える周囲を黒い泥がさらなる恐怖へ突き通す。
《さあ、受け取りなさい》
陽向と桜良に説明すると、思わず苦笑が零れた。
「その妖が陽向を襲ったんですか?」
「おそらく。ほぼ不死の体質じゃなかったら、今頃死ぬまで狂ったように暴走し続けていたかもしれない」
「それって生き地獄ですね。というより、もはや生きてるって言えるのかも怪しいし…」
結月の話によると、狂った人間の魂を極上の供物として捧げる一族がいるらしい。
敬う様子も見られず、狂人と化した人間たちを利用している…つまり、奴の目的は豊穣の巫女を狂わせることということになる。
「豊穣の巫女だって元は人間だ。極上の味だと思ったんじゃないか?」
「そうかもしれません。…計画は杜撰ですが欲望に忠実とも言えます」
純粋な貪欲さを持っているのなら、人間らしい妖ともいえるのかもしれない。
「話し合いでの解決は難しいかもしれない。今夜現れたら強行突破する」
「俺が潜入しましょうか?」
「いや、相手に顔が知られている私が行った方がいいだろう。それに、陽向を狙うとしたら厄介な妖の方だろう」
「それも嫌ですね…」
桜良が青い顔でネット掲示板の画面を開く。
「ネット掲示板で噂になっています。…人喰い奇術師だって」
「怪異になったってことか…」
妖が怪異状態になったとき、ものすごい力を発揮することがある。
その代わり、噂に絶対逆らえない。
「放っておくわけにはいかないな」
「じゃあ俺は奇術師の洗脳にかかったふりをします。ああいう系のはかからないので」
陽向は催眠や洗脳攻撃にかなり強い耐性を持っている。
このまま任せた方がいいだろう。
「分かった。それなら私はもう一度豊穣の巫女のところへ出向く。桜良にはサポートをお願いしたい」
「分かりました」
一旦解散して夜になるのを待ち、再び禁忌の場に足を踏み入れた。
先生が別の面を用意してくれたおかげで気づかれていないようだ。
《私は魚を釣ってきた》
《俺は上等な反物を用意した。気に入っていただけるといいが》
巫女の舞がはじまり、途端に周囲が静寂に包まれる。
羨望の眼差しを向ける者もいれば、あまりの眩しさからか目を背けている者もいた。
「昨日のやつが見当たらない」
「そうだな。けど、諦めて引き下がるタイプじゃないだろ?」
「ああ。今夜は更に上等なものを持ってくるだろうからな」
先生と小声で話しているうちに舞が終わったらしい。
拍手喝采状態のなか、背後の扉が開かれた。
《遅れてしまい、大変申し訳ありません。今夜こそ献上品を受け取っていただきます》
よだれを垂らしたまま口を半開きにしている人間が複数と、ぼろ布を被った何かが奇術師に抱えられている。
《昨夜あんなことになったのに…ぎゃあ!》
奇術師は迷うことなく妖を攻撃した。
怯える周囲を黒い泥がさらなる恐怖へ突き通す。
《さあ、受け取りなさい》
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