夜紅譚

黒蝶

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第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』

第216話

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「すみません。誰にやられたかまでは分からなくて…」
戻る途中で頭から血を流している陽向を見つけた。
もうすでに息はなく、先生が保健室へ運んだ。
「気にしなくていい。掃除なら終わったし、襲った犯人もだいたい見当がついてるから」
起きあがった陽向は平気そうだが、カッターシャツが血まみれだ。
「汚すつもりなかったんですけどね。また桜良に怒られるだろうな…」
陽向は苦笑しながら着替えようとした。
「ひな君、ストップ!」
「何だよちび。もうぐろっちい感じは…あ」
なんとなく気まずくなり、音を立てずに扉まで後ずさる。
「すみません!」
「別に気にしてないよ。外に出ておくから、終わったら声をかけてくれ」
「はい…」
外に出ると同時に、ふたりのにぎやかな会話が聞こえてくる。
「詩乃ちゃんの前で脱ごうとするなんて…」
「危うくただの変人になるところだった。なんだろうな、先輩の前だと安心して気を抜いちゃうんだよな…」
「たしかに詩乃ちゃんがいるとほっとするけど、それとこれとは別でしょ?」
「そうなんだけどな…」
相変わらず仲がいい。
聞いているだけで微笑ましくなった。
「どうした?入らないのか?」
いつの間にか茜を連れて戻ってきた先生に声をかけられ、人差し指をたてる。
「今、先生の声がしなかった?」
「そうか?全然気づかなかったんだけど…。先輩、おまたせしました!」
「丁度今先生が来たところだ」
「え…」
先生は困ったような表情を浮かべながら、茜をしっかり抱えている。
「茜、起きたの?」
《ん!》
「おはよう。今日も元気いっぱいだね」
随分楽しそうにしているが、あまりの成長スピードに驚くばかりだ。
「また少し大きくなったか?」
「ああ。肩乗りサイズより少し大きくなったな」
狙われないように気をつけなくてはならない。
大きくなったということは、それだけ相手にも見つかりやすくなったということになる。
「結月のところへ行ってくるよ。…また後でご飯を持ってくるからな」
《ん!》
楽しそうにする茜たちから離れて、恋愛電話の前に立つ。
《あの子、元気すぎよ…》
「お疲れ」
おにぎりと卵焼きを持っていくと、結月は猫耳少女形態になってゆっくり食べはじめた。
「疲れた体にしみるわ」
「気に入ってもらえたならよかった」
どうしようか迷ったが、私だけで情報を集めるには時間が足りない。
「結月、人間の心を狂人に変える妖を知らないか?」
「名前までは知らないわね。ただ、人間をただの化け物に変えて最後に喰らうものなら知っているわ」
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