夜紅譚

黒蝶

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第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』

第213話

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「終わらせられたのか?」
《私の力は強力だったみたい。だから簡単に死ねない豊穣の巫女になったし、妖たちも攻撃はしてこない》
攻撃はということは、毎年贈り物や貢物が届いているのか。
「おまえは、」
《千代》
「え?」
《私の名前。千代って呼んで》
「…千代は噂から解放されたいか?」
千代と名乗った少女はきらきらと目を輝かせる。
《噂から自由になれるの?》
「上手くいけばできるかもしれない」
《噂に振り回されるのは嫌。豊穣の巫女は辞められなくてもいいから、噂のせいで自分が自分じゃなくなるのを止めて》
返事をしようとすると、勢いよく首を絞めあげられる。
《あなた、とっても美味しそう……》
「…げほ!」
優雅に微笑むその表情はぞっとするほど美しい。
それでも、本心ではないことは分かっている。
「やめ、ろ。後悔、する」
持っていた矢をなんとか千代の手の甲に突き刺した。
《あ、ああ……私、今、》
「よかった。絶対助け出してみせるから、信じてほしい」
自分の手を見て震える千代に、少し咳こみながらそう言葉をかける。
《お願い、助けて》
少女は涙を流しながら姿を消した。
まだどういう条件でそうなるのか分からないが、今回は桜良に噂を書き換えてもらうしかなさそうだ。
「桜良、聞こえるか?」
『はい。…すみません。さっきの会話、勝手に聞いてしまいました』
「それは別にいいんだけど、今回は桜良に負担をかけることになりそうだ。…勝手に決めてごめん」
『いいんです。私もなんとかしたいって思いました』
「ありがとう」
『もう少し豊穣の巫女について詳しい資料がないか、放送室で探してみます』
一旦会話を止めて講堂を出ようとすると、足元に稲とすすきが転がっていることに気づく。
儀式に必要なものなのか、舞の影響で突然育ったものなのか。
放っておくのはいけない気がして、ラッピングでまとめて花束風にしておいた。
「先輩」
「どうした?」
「白露が教えてくれて午後に来たんですけど、さっきまで扉が開かなかったから何かあったんじゃないかと思って…」
「今普通に開いたぞ?」
「え?」
豊穣の巫女の力なのか、別の影響が出ているのか。
あの少女が出てこないということは、今回は誰かが絡んでいるわけではなさそうだ。
だが、油断すればどうなるか分からない。
「実はさっき、豊穣の巫女に会った」
「え!?もしかして、その持ってる稲穂って…」
「彼女が去った後落ちていたんだ」
陽向は興奮した様子で稲穂を見つめた。
「多分、感謝の印ってやつです。この前読んだ資料に書いてありました。お礼とか、気に入った相手に渡されるものだって」
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