258 / 309
第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』
第212話
しおりを挟む
「人間が、怪異の心臓を喰らう…?」
瞬が震えるのも無理はない。
今まで強奪する内容のものはあれど、相手を殺してしまおうなんて過激なものはなかった。
「外部の力が動いていると考えるべきか?」
「分からない。…だが、何かしらの影響を受けている可能性は高い」
結局豊穣の巫女を見つけられていないし、下手に動くと茜が狙われることになる。
「手詰まりだな。何かがいることを明確に示せるわけじゃないし、今はできることをせいいっぱいやるしかない」
人間たちが敵意を向けてこない間に問題を解決するしかない。
そもそも人間が怪異を喰らって無事でいられるはずがないのに、そこを考えないのは狂っている。
《……ん》
「茜、ごめん。起こしたか?」
茜は首を横にふり、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「どうした?」
いまひとつ意思疎通がとれないこともあるが、茜は必死に何かを伝えようとしている。
「俺たちのことは心配するな。みんなちょっと忙しいだけだ」
《……!》
余程理解してもらえたのが嬉しかったのか、その場でぴょんぴょん跳ね回っている。
「危ないぞ」
《むう……》
「あ、ちょっと喋った!」
楽しそうにしているところを邪魔したくなくて、静かに退出する。
「…いるんだろ?」
《何故分かった?》
「気配で分かる。穂乃と一緒にいるんじゃなかったのか?」
白露はこそっと教えてくれた。
《おまえを呼ぶ声がした。大きな、歌うときに使う部屋だ》
──旧校舎の講堂。
「ありがとう。助かったよ」
《偶然耳にしただけだ》
「そうか」
きっと私たちが知らないところで調べてくれていたのだろう。
ずっと放っておくわけにもいかないし、豊穣の巫女という存在が気になる。
講堂の扉を静かに開けると、真ん中で少女が舞っているのが見えた。
《…お姉さん、私を消しに来たの?》
「そんなことしない。ただ、綺麗だと思ったんだ。それと、狙われているから心配だった」
《初対面の相手にそんなことを言うなんて、変わったお姉さん》
「私もそう思うよ」
人間たちが来ないということは、広まった噂の効果がまだ薄いということだ。
「ここから逃げられるか?」
《場所を変えることはできるかもしれないけど、ここから去ることはできない。…そういう決まりだから》
少女の表情には疲労の色が滲んでいる。
「私に手伝えることはあるか?」
《もし誰か来たら止めてほしい。私は美味しくないし、舞うのをやめたらあの儀式が再開されちゃうかもしれない》
「あの儀式?」
少女はためらっている様子だったが、固く閉ざしていた口を開く。
《毎年、力が強い人間を5人生贄として捧げていたみたい。私が舞をはじめたのはその風習を終わらせるためだったけど、詳しくは知らない》
瞬が震えるのも無理はない。
今まで強奪する内容のものはあれど、相手を殺してしまおうなんて過激なものはなかった。
「外部の力が動いていると考えるべきか?」
「分からない。…だが、何かしらの影響を受けている可能性は高い」
結局豊穣の巫女を見つけられていないし、下手に動くと茜が狙われることになる。
「手詰まりだな。何かがいることを明確に示せるわけじゃないし、今はできることをせいいっぱいやるしかない」
人間たちが敵意を向けてこない間に問題を解決するしかない。
そもそも人間が怪異を喰らって無事でいられるはずがないのに、そこを考えないのは狂っている。
《……ん》
「茜、ごめん。起こしたか?」
茜は首を横にふり、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「どうした?」
いまひとつ意思疎通がとれないこともあるが、茜は必死に何かを伝えようとしている。
「俺たちのことは心配するな。みんなちょっと忙しいだけだ」
《……!》
余程理解してもらえたのが嬉しかったのか、その場でぴょんぴょん跳ね回っている。
「危ないぞ」
《むう……》
「あ、ちょっと喋った!」
楽しそうにしているところを邪魔したくなくて、静かに退出する。
「…いるんだろ?」
《何故分かった?》
「気配で分かる。穂乃と一緒にいるんじゃなかったのか?」
白露はこそっと教えてくれた。
《おまえを呼ぶ声がした。大きな、歌うときに使う部屋だ》
──旧校舎の講堂。
「ありがとう。助かったよ」
《偶然耳にしただけだ》
「そうか」
きっと私たちが知らないところで調べてくれていたのだろう。
ずっと放っておくわけにもいかないし、豊穣の巫女という存在が気になる。
講堂の扉を静かに開けると、真ん中で少女が舞っているのが見えた。
《…お姉さん、私を消しに来たの?》
「そんなことしない。ただ、綺麗だと思ったんだ。それと、狙われているから心配だった」
《初対面の相手にそんなことを言うなんて、変わったお姉さん》
「私もそう思うよ」
人間たちが来ないということは、広まった噂の効果がまだ薄いということだ。
「ここから逃げられるか?」
《場所を変えることはできるかもしれないけど、ここから去ることはできない。…そういう決まりだから》
少女の表情には疲労の色が滲んでいる。
「私に手伝えることはあるか?」
《もし誰か来たら止めてほしい。私は美味しくないし、舞うのをやめたらあの儀式が再開されちゃうかもしれない》
「あの儀式?」
少女はためらっている様子だったが、固く閉ざしていた口を開く。
《毎年、力が強い人間を5人生贄として捧げていたみたい。私が舞をはじめたのはその風習を終わらせるためだったけど、詳しくは知らない》
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春にとける、透明な白。
葵依幸
ライト文芸
彼女のことを綴る上で欠かせない言葉は「彼女は作家であった」ということだ。
僕が彼女を知ったその日から、そして、僕が彼女の「読者」になったその日から。
彼女は最後まで僕にとっての作家であり続けた。作家として言葉を残し続けた。
いまはもう、その声を耳にすることは出来ないけれど。もしかすると、跡形もなく、僕らの存在は消えてしまうのかもしれないけれど。作家であり続けた彼女の言葉はこの世界に残り続ける。残ってほしいと思う。だから、僕は彼女の物語をここに綴る事にした。
我儘で、自由で、傲慢で。
それでいて卑屈で、不自由で、謙虚だった長い黒髪が似合う、彼女の事を。
神崎家シリーズSS集
松丹子
ライト文芸
ブログに掲載していたSSを集めてみました。随時転載していきます。
今後、ブログに新しいSSを掲載した場合にはこちらにも掲載する予定です。掲載順ではないため、お手数ですが更新日時を参考ください。
(掲載時、近況ページで何を公開したか記載します)
※書式等そのまま掲載しています。
※各作品のネタバレを含むものもあるのでご注意ください。
都市伝説レポート
君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる