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第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』
第212話
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「人間が、怪異の心臓を喰らう…?」
瞬が震えるのも無理はない。
今まで強奪する内容のものはあれど、相手を殺してしまおうなんて過激なものはなかった。
「外部の力が動いていると考えるべきか?」
「分からない。…だが、何かしらの影響を受けている可能性は高い」
結局豊穣の巫女を見つけられていないし、下手に動くと茜が狙われることになる。
「手詰まりだな。何かがいることを明確に示せるわけじゃないし、今はできることをせいいっぱいやるしかない」
人間たちが敵意を向けてこない間に問題を解決するしかない。
そもそも人間が怪異を喰らって無事でいられるはずがないのに、そこを考えないのは狂っている。
《……ん》
「茜、ごめん。起こしたか?」
茜は首を横にふり、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「どうした?」
いまひとつ意思疎通がとれないこともあるが、茜は必死に何かを伝えようとしている。
「俺たちのことは心配するな。みんなちょっと忙しいだけだ」
《……!》
余程理解してもらえたのが嬉しかったのか、その場でぴょんぴょん跳ね回っている。
「危ないぞ」
《むう……》
「あ、ちょっと喋った!」
楽しそうにしているところを邪魔したくなくて、静かに退出する。
「…いるんだろ?」
《何故分かった?》
「気配で分かる。穂乃と一緒にいるんじゃなかったのか?」
白露はこそっと教えてくれた。
《おまえを呼ぶ声がした。大きな、歌うときに使う部屋だ》
──旧校舎の講堂。
「ありがとう。助かったよ」
《偶然耳にしただけだ》
「そうか」
きっと私たちが知らないところで調べてくれていたのだろう。
ずっと放っておくわけにもいかないし、豊穣の巫女という存在が気になる。
講堂の扉を静かに開けると、真ん中で少女が舞っているのが見えた。
《…お姉さん、私を消しに来たの?》
「そんなことしない。ただ、綺麗だと思ったんだ。それと、狙われているから心配だった」
《初対面の相手にそんなことを言うなんて、変わったお姉さん》
「私もそう思うよ」
人間たちが来ないということは、広まった噂の効果がまだ薄いということだ。
「ここから逃げられるか?」
《場所を変えることはできるかもしれないけど、ここから去ることはできない。…そういう決まりだから》
少女の表情には疲労の色が滲んでいる。
「私に手伝えることはあるか?」
《もし誰か来たら止めてほしい。私は美味しくないし、舞うのをやめたらあの儀式が再開されちゃうかもしれない》
「あの儀式?」
少女はためらっている様子だったが、固く閉ざしていた口を開く。
《毎年、力が強い人間を5人生贄として捧げていたみたい。私が舞をはじめたのはその風習を終わらせるためだったけど、詳しくは知らない》
瞬が震えるのも無理はない。
今まで強奪する内容のものはあれど、相手を殺してしまおうなんて過激なものはなかった。
「外部の力が動いていると考えるべきか?」
「分からない。…だが、何かしらの影響を受けている可能性は高い」
結局豊穣の巫女を見つけられていないし、下手に動くと茜が狙われることになる。
「手詰まりだな。何かがいることを明確に示せるわけじゃないし、今はできることをせいいっぱいやるしかない」
人間たちが敵意を向けてこない間に問題を解決するしかない。
そもそも人間が怪異を喰らって無事でいられるはずがないのに、そこを考えないのは狂っている。
《……ん》
「茜、ごめん。起こしたか?」
茜は首を横にふり、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「どうした?」
いまひとつ意思疎通がとれないこともあるが、茜は必死に何かを伝えようとしている。
「俺たちのことは心配するな。みんなちょっと忙しいだけだ」
《……!》
余程理解してもらえたのが嬉しかったのか、その場でぴょんぴょん跳ね回っている。
「危ないぞ」
《むう……》
「あ、ちょっと喋った!」
楽しそうにしているところを邪魔したくなくて、静かに退出する。
「…いるんだろ?」
《何故分かった?》
「気配で分かる。穂乃と一緒にいるんじゃなかったのか?」
白露はこそっと教えてくれた。
《おまえを呼ぶ声がした。大きな、歌うときに使う部屋だ》
──旧校舎の講堂。
「ありがとう。助かったよ」
《偶然耳にしただけだ》
「そうか」
きっと私たちが知らないところで調べてくれていたのだろう。
ずっと放っておくわけにもいかないし、豊穣の巫女という存在が気になる。
講堂の扉を静かに開けると、真ん中で少女が舞っているのが見えた。
《…お姉さん、私を消しに来たの?》
「そんなことしない。ただ、綺麗だと思ったんだ。それと、狙われているから心配だった」
《初対面の相手にそんなことを言うなんて、変わったお姉さん》
「私もそう思うよ」
人間たちが来ないということは、広まった噂の効果がまだ薄いということだ。
「ここから逃げられるか?」
《場所を変えることはできるかもしれないけど、ここから去ることはできない。…そういう決まりだから》
少女の表情には疲労の色が滲んでいる。
「私に手伝えることはあるか?」
《もし誰か来たら止めてほしい。私は美味しくないし、舞うのをやめたらあの儀式が再開されちゃうかもしれない》
「あの儀式?」
少女はためらっている様子だったが、固く閉ざしていた口を開く。
《毎年、力が強い人間を5人生贄として捧げていたみたい。私が舞をはじめたのはその風習を終わらせるためだったけど、詳しくは知らない》
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