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第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』
第211話
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「いってきます」
「いってらっしゃい!」
白露に説明をすませ、久しぶりに大学棟へ顔を出す。
「あ、憲兵姫だ」
「おはよう」
「今日は対面で授業受けていくの?」
「いや。どうしても渡さないといけないものがあったから来ただけ」
「折角だし対面で受ければいいのに…」
須郷からはいつもそう言われるが、ここにはとても居づらい。
それに、大量の人間のなかにいると息が詰まる。
この感覚を表現するのは難しいが、とにかく他人に対する拒絶が強いようだ。
「ごめん。けど、他にも行かないといけない場所があるから」
話しかけてくれるのはありがたいけど、あくまで噂について調べに来ただけだ。
それに、今日は別の約束もあった。
「伴田」
「あ、詩乃さん!来てくれてありがとう」
芸術専攻クラスでずっと絵を描き続けている伴田雪絵とは、高校時代と変わらず綺麗な絵を完成させている。
「あの日の約束、ずっと守ってくれて嬉しいな」
「見ていて心が安らぐんだ。伴田の絵は素敵だな」
「詩乃さんにそう言ってもらえると嬉しいな」
伴田の表情は安堵と喜びが入り混じったものになっていた。
「そういえば、最近変な噂を聞かないか?」
「デザイン専攻の子たちが、豊穣の巫女の衣の糸で服を作ったら幸せに暮らせるとかなんとか話していたよ。
あと、メイク部門の子たちは巫女に化粧をすれば豊穣をもたらしてくれるって…」
まさかそんな内容で広まっているとは思っていなかった。
おどろおどろしいわけではないが、このまま放っておけば確実に脅威になる。
「教えてくれてありがとう」
「詩乃さん、よかったら、これ…。ただの栞だけど、お守り代わりにしてもらえたら嬉しいな」
「ありがとう。大切にする」
すすきを描いたのは誰か、聞かなくても分かる。
このままゆっくりしていたいが、そういうわけにもいかない。
大学棟を出ると、高等部の制服を着た生徒たちの話し声が聞こえる。
「つまり、その豊穣の巫女って人を捕まえたら一生安泰ってこと?」
「そうらしいぞ。今夜定時制の生徒に紛れて探してみようぜ」
相手が人間に対して憎しみしか持てなくなる行動を、何故そうも平然ととれるのか。
「先輩」
「陽向…」
「嫌なもん聞いちゃいましたけど、肩の力抜いていきましょ。じゃないと、夜ばてちゃいますよ」
「それもそうだな。陽向のところには何か情報は来たか?」
「嫌な話を耳にしたからきたんです」
陽向の顔は途端に曇り、他の生徒に聞こえないように小声で言った。
「豊穣の巫女の心臓を喰らえば不死身になれるらしい、みたいな話です。
妖たちならともかく、人間からこんな言葉が出るって異常じゃないですか?」
「いってらっしゃい!」
白露に説明をすませ、久しぶりに大学棟へ顔を出す。
「あ、憲兵姫だ」
「おはよう」
「今日は対面で授業受けていくの?」
「いや。どうしても渡さないといけないものがあったから来ただけ」
「折角だし対面で受ければいいのに…」
須郷からはいつもそう言われるが、ここにはとても居づらい。
それに、大量の人間のなかにいると息が詰まる。
この感覚を表現するのは難しいが、とにかく他人に対する拒絶が強いようだ。
「ごめん。けど、他にも行かないといけない場所があるから」
話しかけてくれるのはありがたいけど、あくまで噂について調べに来ただけだ。
それに、今日は別の約束もあった。
「伴田」
「あ、詩乃さん!来てくれてありがとう」
芸術専攻クラスでずっと絵を描き続けている伴田雪絵とは、高校時代と変わらず綺麗な絵を完成させている。
「あの日の約束、ずっと守ってくれて嬉しいな」
「見ていて心が安らぐんだ。伴田の絵は素敵だな」
「詩乃さんにそう言ってもらえると嬉しいな」
伴田の表情は安堵と喜びが入り混じったものになっていた。
「そういえば、最近変な噂を聞かないか?」
「デザイン専攻の子たちが、豊穣の巫女の衣の糸で服を作ったら幸せに暮らせるとかなんとか話していたよ。
あと、メイク部門の子たちは巫女に化粧をすれば豊穣をもたらしてくれるって…」
まさかそんな内容で広まっているとは思っていなかった。
おどろおどろしいわけではないが、このまま放っておけば確実に脅威になる。
「教えてくれてありがとう」
「詩乃さん、よかったら、これ…。ただの栞だけど、お守り代わりにしてもらえたら嬉しいな」
「ありがとう。大切にする」
すすきを描いたのは誰か、聞かなくても分かる。
このままゆっくりしていたいが、そういうわけにもいかない。
大学棟を出ると、高等部の制服を着た生徒たちの話し声が聞こえる。
「つまり、その豊穣の巫女って人を捕まえたら一生安泰ってこと?」
「そうらしいぞ。今夜定時制の生徒に紛れて探してみようぜ」
相手が人間に対して憎しみしか持てなくなる行動を、何故そうも平然ととれるのか。
「先輩」
「陽向…」
「嫌なもん聞いちゃいましたけど、肩の力抜いていきましょ。じゃないと、夜ばてちゃいますよ」
「それもそうだな。陽向のところには何か情報は来たか?」
「嫌な話を耳にしたからきたんです」
陽向の顔は途端に曇り、他の生徒に聞こえないように小声で言った。
「豊穣の巫女の心臓を喰らえば不死身になれるらしい、みたいな話です。
妖たちならともかく、人間からこんな言葉が出るって異常じゃないですか?」
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