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第24章『豊穣の巫女へ捧ぐ』
第210話
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「俺、分かっちゃったかもしれません」
「何がだ?」
「茜を狙ってる理由です」
陽向の話によると、妖たちはこの時期現れる豊穣の巫女への貢物を探しているらしい。
本来は手作りしたものや自分が育てた食物を渡すが、美味な生き物ならどうだろう。
「…そういうことか」
『豊穣の巫女は元々人間だったようですが、噂に取りこまれた結果おかしな方向に捻じ曲げられたみたいです』
「桜良の説明はいつも分かりやすいな。助かるよ」
『少し古い本を読み漁った程度なので…』
「わざわざまとめてくれたんだろ?ありがとう」
舞や剣舞を奉納するのであれば、どこかしら決まった場所に現れるはずだ。
だが、豊穣の巫女ではなく捧げ物をしようとしている妖や怪異を全て相手しなければならないことをさしている。
「今夜はもう少し見回ったら戻ろう」
「ですね。…まあ、露払いくらいはしておきたいところですけど」
目の前から現れたのは、巨大なゴキブリのような形をした妖だった。
明らかに正気を失っているようで、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「げ、来た!某映画じゃないんだから、そんなでかいサイズで来られても困るって…」
《ヴォア!》
陽向は思い切り相手の体に拳をくらわせる。
すると、巨大にヒビが入り、中から無数の蟲が飛び出した。
「嘘だろ…」
「陽向、離れろ」
流石に一気に片づけるのは無理だろうが、多少蹴散らすくらいはできる。
一射目で3割ほど、二射目で半分ほど蹴散らせた。
「…逃げられたか」
「すみません。まさかあんなふうに飛散するタイプとは思わなくて…」
「私も予想してなかった」
残りの蟲の集団を探したが、この日は見つけることができなかった。
先生への報告をすませ、一旦家に帰る。
「お姉ちゃん」
「ごめん。起こしたか?」
「ううん、ちょっと目が覚めちゃって…」
白露と一緒にお茶を飲んでいたらしく、なんだかのどかな雰囲気だった。
「あ、そういえば」
《全国表彰されたらしい》
「白露、もう…」
「何の話だ?」
穂乃は口をもごもごさせながら教えてくれた。
「この前、絵のコンクールに出したものが最優秀賞になったんだ」
「すごいな。穂乃の絵は魅力的だし、きっと頑張りが認められたんだな」
《表彰式?が参観日?の後におこなわれるらしい》
参観日があることすら知らなかった。
穂乃のことだから、気を遣って黙っていてくれたのだろう。
言い慣れない言葉に戸惑いながら教えてくれた白露の口元に、穂乃の人差し指が当てられる。
「ありがとう白露。ちゃんと見に行くからな」
「…うん」
穂乃が寝た後、白露にだけは話しておこう。
小さな蟲に気をつけてほしいと。
「何がだ?」
「茜を狙ってる理由です」
陽向の話によると、妖たちはこの時期現れる豊穣の巫女への貢物を探しているらしい。
本来は手作りしたものや自分が育てた食物を渡すが、美味な生き物ならどうだろう。
「…そういうことか」
『豊穣の巫女は元々人間だったようですが、噂に取りこまれた結果おかしな方向に捻じ曲げられたみたいです』
「桜良の説明はいつも分かりやすいな。助かるよ」
『少し古い本を読み漁った程度なので…』
「わざわざまとめてくれたんだろ?ありがとう」
舞や剣舞を奉納するのであれば、どこかしら決まった場所に現れるはずだ。
だが、豊穣の巫女ではなく捧げ物をしようとしている妖や怪異を全て相手しなければならないことをさしている。
「今夜はもう少し見回ったら戻ろう」
「ですね。…まあ、露払いくらいはしておきたいところですけど」
目の前から現れたのは、巨大なゴキブリのような形をした妖だった。
明らかに正気を失っているようで、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「げ、来た!某映画じゃないんだから、そんなでかいサイズで来られても困るって…」
《ヴォア!》
陽向は思い切り相手の体に拳をくらわせる。
すると、巨大にヒビが入り、中から無数の蟲が飛び出した。
「嘘だろ…」
「陽向、離れろ」
流石に一気に片づけるのは無理だろうが、多少蹴散らすくらいはできる。
一射目で3割ほど、二射目で半分ほど蹴散らせた。
「…逃げられたか」
「すみません。まさかあんなふうに飛散するタイプとは思わなくて…」
「私も予想してなかった」
残りの蟲の集団を探したが、この日は見つけることができなかった。
先生への報告をすませ、一旦家に帰る。
「お姉ちゃん」
「ごめん。起こしたか?」
「ううん、ちょっと目が覚めちゃって…」
白露と一緒にお茶を飲んでいたらしく、なんだかのどかな雰囲気だった。
「あ、そういえば」
《全国表彰されたらしい》
「白露、もう…」
「何の話だ?」
穂乃は口をもごもごさせながら教えてくれた。
「この前、絵のコンクールに出したものが最優秀賞になったんだ」
「すごいな。穂乃の絵は魅力的だし、きっと頑張りが認められたんだな」
《表彰式?が参観日?の後におこなわれるらしい》
参観日があることすら知らなかった。
穂乃のことだから、気を遣って黙っていてくれたのだろう。
言い慣れない言葉に戸惑いながら教えてくれた白露の口元に、穂乃の人差し指が当てられる。
「ありがとう白露。ちゃんと見に行くからな」
「…うん」
穂乃が寝た後、白露にだけは話しておこう。
小さな蟲に気をつけてほしいと。
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