夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
250 / 309
第23章『飛べない雛鳥』

第205話

しおりを挟む
「先生、検査に…」
旧校舎の保健室、瞬がばたばた動きまわっていた。
「どうした?」
「先生に言われたものを用意してて…」
カーテンを開けると、先生が小さな生き物を抱えていた。
「どうしたんだ、その子…」
「いつぞやに拾った卵があっただろ?あれが孵った」
先生に預かると言われたものがあったことを思い出し、もっていたガーゼを差し出す。
「小さいんだな。というより…」
目元は瞬に似ていて、髪型は先生っぽい。
何より、本当に小さい体であることに驚いた。
「後で説明するから手伝ってくれるか?」
「勿論。そのサイズなら持ってるもので服を用意する。瞬、その桶を先生の前に置いたら私の鞄から布の切れ端をとってほしい」
「分かった」
疑問はさておき、とにかく風邪をひかせないようにしなければならない。
「ひと段落したら話を聞かせてくれ」

──小さい服を完成させて着せた後、小さな生き物はぐっすり眠ってしまった。
「おそらく妖の一種だ。魚や鳥、虫の巣に卵を生むはずだが…」
「そういうものは近くになかったな、あの場所」
「姿形は生まれた場所によって変わるらしい。たとえば、魚に紛れて生まれたら魚の姿の妖として育つ」
「…成程、親だと思ったものを真似るのか」
だから小さな妖は、先生と瞬の中間のような見た目になっているのか。
「様子が変だから先生と見ていたんだ。そうしたら殻を破って出てきて…。どうしよう」
「俺たちで世話をしていくしかないだろう。命だからな」
先生は小さく息を吐き、小さめの籠に妖を寝かせる。
「だったら、名前をつけた方がいいんじゃないか?流石に妖って呼ぶわけにはいかないだろ」
「名前か…」
「どういうのがいいんだろう?」
「男女どちらでもあるものがいいだろうな。この妖には性別がないから」
相手が気に入ってくれそうな名前を考えるのは難しい。
この子と意思疎通がとれるかどうか…。
「星の名前とか?」
「奇抜になりそうだな」
「じゃあ…葵とか茜は?男女どっちでもいる名前でしょ?」
「それでいくか。どっちがいいかはこいつに決めさせるとしよう」
先生はそう言って鞄から半紙を取り出し、一方に葵の文字、もう一方に茜の文字を書く。
「本人に選ばせればいい。意味は分からなくても、響きや雰囲気で選ぶことはできる」
「その子、何を食べるんだろうな…」
「俺と瞬の特徴を捉えているなら、食べるものは同じなはずだ」
「でも、あの子のサイズの料理って作れるの?」
「難しいな…」
小さめのマスコットほどの大きさのその子を、どうやって育てていくんだろう。
陽向たちなら何か知っているかもしれない。
「色々聞いてみるよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。 【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21

愛しくて悲しい僕ら

寺音
ライト文芸
第6回ライト文芸大賞 奨励賞をいただきました。ありがとうございます。 それは、どこかで聞いたことのある歌だった。 まだひと気のない商店街のアーケード。大学一年生中山三月はそこで歌を歌う一人の青年、神崎優太と出会う。 彼女は彼が紡ぐそのメロディを、つい先程まで聴いていた事に気づく。 それは、今朝彼女が見た「夢」の中での事。 その夢は事故に遭い亡くなった愛猫が出てくる不思議な、それでいて優しく彼女の悲しみを癒してくれた不思議な夢だった。 後日、大学で再会した二人。柔らかな雰囲気を持つ優太に三月は次第に惹かれていく。 しかし、彼の知り合いだと言う宮本真志に「アイツには近づかない方が良い」と警告される。 やがて三月は優太の持つ不思議な「力」について知ることとなる。 ※第一話から主人公の猫が事故で亡くなっております。描写はぼかしてありますがご注意下さい。 ※時代設定は平成後期、まだスマートフォンが主流でなかった時代です。その為、主人公の持ち物が現在と異なります。

夜紅前日譚

黒蝶
キャラ文芸
母親が亡くなってからというもの、ひたすら鍛錬に精を出してきた折原詩乃。 師匠である神宮寺義政(じんぐうじ よしまさ)から様々な知識を得て、我流で技を編み出していく。 そんなある日、神宮寺本家に見つかってしまい…? 夜紅誕生秘話、前日譚ここにあり。 ※この作品は『夜紅の憲兵姫』の過去篇です。 本作品からでも楽しめる内容になっています。

透明の「扉」を開けて

美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。 ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。 自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。 知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。 特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。 悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。 この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。 ありがとう 今日も矛盾の中で生きる 全ての人々に。 光を。 石達と、自然界に 最大限の感謝を。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

北畠の鬼神

小狐丸
ファンタジー
 その昔、産まれ落ちた時から優秀過ぎる故、親からも鬼子と怖れられた美少年が居た。  故郷を追われ、京の都へと辿り着いた時には、その身は鬼と化していた。  大江山の鬼の王、酒呑童子と呼ばれ、退治されたその魂は、輪廻の輪を潜り抜け転生を果たす。  そして、その転生を果たした男が死した時、何の因果か神仏の戯れか、戦国時代は伊勢の国司家に、正史では存在しなかった四男として再び生を受ける。  二度の生の記憶を残しながら……  これは、鬼の力と現代人の知識を持って転生した男が、北畠氏の滅亡を阻止する為に奮闘する物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーー この作品は、中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生をリメイクしたものです。  かなり大幅に設定等を変更しているので、別物として読んで頂ければ嬉しいです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

須加さんのお気に入り

月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。 丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

処理中です...