夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
243 / 309
閑話『ひと夏の思い出を』

合宿慣れ

しおりを挟む
「そこまで。穂乃の勝ち」
「負けちゃった…残念」
瞬君とお姉ちゃんと一緒にやっているのは、水鉄砲で空のペットボトルを倒すゲーム。
お姉ちゃんは審判で、遊び感覚でできるからって他の人たちも一緒にやってくれる。
なんだかそれが楽しかった。
「穂乃ちゃん、前見たときよりもっと上手くなってるよね…。いっぱい練習したの?」
「うん。流石に家で水鉄砲は使えないから、じょうろの水を遠くからプランターに入れられるか、とか…。
あ、あとは白露と鬼ごっこして、ホースの水をかけられるかとかはやったよ。上手になれたかな?」
「僕の想像してた練習とぜんぜん違う…」
「思ったよりハードな練習をしてたんだな」
瞬君だけじゃなくてお姉ちゃんにもそう言われちゃって、首を傾げる。
絶対にお姉ちゃんの方が厳しい鍛錬をしているのに、どうしてハードだと思ったんだろう。
「あ、ひな君」
「お疲れ。何これ射的?」
「そんな感じ。穂乃ちゃんと勝負してみてよ」
「今休憩中だし…よし、勝負しよう」
陽向君の両手には絆創膏が沢山貼られていて、なんだかすごく痛そうだった。
一生懸命練習しているからっていうのは分かるけど、厳しい修行をしたんだってことは分かる。
「そこまで。穂乃の勝ち」
それでも、水鉄砲だけは負けられない。
「え、穂乃ちゃん強…うわ!?」
陽向君の声にはっと顔をあげると、持っている水鉄砲から水がとめどなく流れていた。
「ひな君、何してるの?」
「止まらないんだって…。もうトリガーから指離してるのに」
暴発しているみたいで、全然止まる気配がない。
その光景に固まっていると、お姉ちゃんが全速力で陽向君に近づいて手を握った。
「私が持っておくから先生を呼んできてくれ」
「分かった、僕が行く」
「私も行ってくるね」
室星先生を呼んで戻った頃には、ふたりともびしょ濡れになっていた。
「何をどうしてそうなった?」
「急に水が溢れ出して…俺にも分からないです」
「全然止まらなかったんだけど、どこにあれだけの水が…」
先生は壊れた水鉄砲を見つめて、散らばった部品を集める。
…と思ったら、先生の手のひらから卵みたいなものが出てきた。
「それが原因ですか?」
「おそらくそうだな。偶然だと思うが、これは俺が預かる。折原と岡副はシャワーを浴びてくるように。いいな?」
「分かった」
「了解です」
瞬君に手を握られて、桜良先輩のところへご飯を作りに行く。
久しぶりにお姉ちゃんと長い時間を過ごせて楽しかった。
…この生活にも慣れてきたし、ちょっとは役に立てているといいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君の中で世界は廻る

便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、 二年つき合った彼にフラれた フラれても仕方がないのかも だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから… そんな私は田舎に帰ることに決めた 私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島 唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい 看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた 流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため…… 田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た 「島の皆さん、こんにちは~ 東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。 よろしくお願いしま~す」 は??? どういうこと???

腐っている侍女

桃井すもも
恋愛
私は腐っております。 腐った侍女でございます。 腐った眼(まなこ)で、今日も麗しの殿下を盗み視るのです。 出来過ぎ上司の侍従が何やらちゃちゃを入れて来ますが、そんなの関係ありません。 短編なのに更に短めです。   内容腐り切っております。 お目汚し確実ですので、我こそは腐ってみたいと思われる猛者読者様、どうぞ心から腐ってお楽しみ下さい。 昭和のネタが入るのはご勘弁。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

夜紅の憲兵姫

黒蝶
ライト文芸
烏合学園監査部…それは、生徒会役員とはまた別の権威を持った独立部署である。 その長たる高校部2年生の折原詩乃(おりはら しの)は忙しい毎日をおくっていた。 妹の穂乃(みの)を守るため、学生ながらバイトを複数掛け持ちしている。 …表向きはそういう学生だ。 「普通のものと変わらないと思うぞ。…使用用途以外は」 「あんな物騒なことになってるなんて、誰も思ってないでしょうからね…」 ちゃらい見た目の真面目な後輩の陽向。 暗い過去と後悔を抱えて生きる教師、室星。 普通の人間とは違う世界に干渉し、他の人々との出逢いや別れを繰り返しながら、詩乃は自分が信じた道を歩き続ける。 これは、ある少女を取り巻く世界の物語。

サレ夫が愛した女性たちの追憶

しらかわからし
ライト文芸
この小説は、某ブログで掲載していたものですが、この度閉鎖しアクアポリス様だけで掲載いたします。 愛と欲望、裏切りと再生をテーマに主人公自身が女性たちと交錯し、互いに影響をし合いながら変化していく、様子を描きました。暫く、公開を停止していたのですが、本日(2024年10月5日)より再公開させて頂きました。 表紙の画像はCANVA様からお借りしました。

同じ星を目指して歩いてる

井川林檎
ライト文芸
☆第三回ライト文芸大賞 奨励賞☆ 梟荘に集まった、年も事情も違う女子三名。 ほんの一時の寄せ集め家族は、それぞれ低迷した時期を過ごしていた。 辛さを抱えているけれど、不思議に温かでどこか楽しい。 後から思い返せばきっと、お祭りのような特殊な時期となる。 永遠に変わらないものなんて、きっとない。 ※表紙画像:ぱくたそ無料素材を借用

『Happiness 幸福というもの』 

設樂理沙
ライト文芸
息子の恋人との顔会わせをする段になった時「あんな~~~な女なんて 絶対家になんて上げないわよ!どこか他所の場所で充分でしょ!!」と言い放つ鬼畜母。 そんな親を持ってしまった息子に幸せは訪れるでしょうか? 最後のほうでほんのちょこっとですが、わたしの好きな仔猫や小さな子が出て来ます。 2つの小さな幸せを描いています。❀.(*´◡`*)❀. 追記: 一生懸命生きてる二人の女性が寂しさや悲しみを 抱えながらも、運命の男性との出会いで幸せに なってゆく・・物語です。  人の振れ合いや暖かさみたいなものを 感じていただければ幸いです。 注意 年の差婚、再婚されてる方、不快に思われる台詞が    ありますのでご注意ください。(ごめんなさい)    ちな、私も、こんな非道な発言をするような姑は    嫌いどす。 ・(旧) Puzzleの加筆修正版になります。(2016年4月上旬~掲載) 『Happiness 幸福というもの』  ❦ イラストはAI生成有償画像 OBAKERON様 ◇再掲載は2021.10.14~2021.12.22

桜の華 ― *艶やかに舞う* ―

設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が 桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。 学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの 幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。 お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして 自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを 仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。 異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは はたして―――彼に届くのだろうか? そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。 夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、 夫を許せる日は来るのだろうか? ――――――――――――――――――――――― 2024.6.1~2024.6.5 ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。 執筆開始 2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ ❦イラストは、AI生成画像自作

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 11/19 『夫の疑問、妻の確信3』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/15 *『夫の疑問、妻の確信2』  11/11 *『夫の疑問、妻の確信 1 』 10/12 *『いつもあなたの幸せを。』 9/14 *『伝統行事』 8/24 *『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで *『日常のひとこま』は公開終了しました。 7月31日   *『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 *『ある時代の出来事』 6/8   *女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。 *光と影 全1頁。 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和6年1/7 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

処理中です...