夜紅譚

黒蝶

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第22章『死者の案内人』

第204話

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「……その程度か?」
触手じみたものを火炎刃で焼ききる。
《ア、ナンデ……》
「私は今すごく怒っている。多分、おまえの想像の100倍くらい」
《……ア?》
「だから、優しく弔ってなんかやらない」
火炎刃を3枚並べ、そのうちのひとつを相手の触手に投げつけた。
《イダアアアア!》
「おまえに喰われた人の痛みはそんなものじゃなかったはずだ」
《マダ、マダアア……》
言葉が通じない。
原因は邪気や瘴気というより、死者を喰らいすぎたことによる中毒症状だろう。
「私にはこれしかできないけど、いつかおまえが救われることを願ってるよ」
《タ、タベタイ…》
「さようなら」
残った火炎刃を両手に持ち、体を回転させながらとどめを刺す。
捕食者の体は跡形も残らず、ぼろぼろと崩れて灰になった。
「…これで終わり、ですかね?」
「そう信じたいな」
急いで学園まで戻ろうとすると、鳴き声が響きわたる。
《グルルル…》
「いやあ、モテますね…」
「そうだな」
なるべく早く片づけようとナイフをかまえると、陽向が相手に突進していく。
「ごめんな。けど俺、桜良にだけモテてればいいから」
《グオオ!》
勢いよく放たれた拳は相手の顔にめりこみ、そのまま砕け散った。
「これで全部ですかね?」
「先生に確認をとってもらうよ」
それから少しして連絡がきて、どうやら捕食者を全て捕らえるなり祓うなりできたらしいとのことだった。
「そこそこ暴れられたな」
「ですね。けど、ここまでで被害を食い止められたなら安心です」
陽向の安堵する表情を見て、私も少しほっとした。
「あとはうじゃうじゃわいてるのを倒せば終わりか」
「あんまり時間かけたくないですね。というか、早く帰ってシャワー浴びたい…」
《イ、イ、ノオ?》
《ギギギギ……》
捕食者の気配にあてられたのか、わらわらと妖ものが現れる。
「一気に片づけよう」
「はい!」
左側の拳が通りやすそうな相手を陽向に任せ、明らかに硬そうな見た目の妖に火炎刃を向ける。
「私、美味しそうだろ?」
斬って斬って、ひたすら斬りまくる。
もう誰も傷つく人が出ないように願いながら、どうにか纏わりついている邪気や瘴気だけを消し去った。
「こんなものか。陽向、後ろ」
「え、でか……」
殲滅したのを確認して学園へ戻る。
凶暴化したり暴走したり、あの男は関係していないはずなのに最近はそんなことばかりだ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ。陽向が来てくれて助かったよ」
「それはこっちの台詞ですよ。…先輩がいてくれてよかったです」
夏休みはもう少しある。
力の制御を覚えつつ、もっとできることを増やしたい。
車掌に終わったと報告して、この日はゆっくり休んだ。
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