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第22章『死者の案内人』
第196話
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「穂乃、もう少し上だ」
「う、うん!」
恒例になった夏合宿、誰もいない旧校舎を自由に使わせてもらっている。
穂乃の水鉄砲の命中率を上げるための特訓につきあいながら、自分の鍛錬も欠かさずおこなっていた。
「岡副、もう少し霊力を腕に集中させられるか?」
「腕に…やってみます」
陽向は新しい武器を使いこなせるようにするため、瞬はまだ本調子ではないため桜良と旧校舎の掃除をしている。
「少し休憩にしよう」
「ああ……」
倒れこんだ陽向にスポーツ飲料を持っていく桜良と、先生に塩飴を手渡す瞬。
「…誰か白露を見てないか?」
「そういえば、見回りしてくるって出ていったきりですね」
「折原妹、呼び出してみろ」
「どうやるんですか?」
「自分の近くにくる白露を強くイメージすればいい」
「イメージ…」
穂乃は目を閉じて言われたとおり想像したらしい。
一瞬で白露が目の前に現れた。
《…何かあったのか?》
「すごい、白露が本当に来た!」
《何の話だ》
「…説明してなかったのか」
先生の話によると、契約者は式神を呼び出すことができるらしい。
どれだけ離れていようが、呼び出す思いが呼び鈴のような役割を果たすそうだ。
《……そんなこともあったな》
嫌な思い出があるのか、それ以上話したくないようだった。
俯いた白露を穂乃は心配そうに見つめる。
「…嫌だった?」
《特に不快感はない。何かあったのかと思っただけだ》
「ごめんね。どこに行ったか分からないから、呼びかけてみようと思って…。あと、これ飲んで」
《…もらおう》
麦茶を飲む白露の頬には見覚えのない傷がある。
「白露、ちょっといいか?」
《別にかまわないが…》
「穂乃、白露を借りるよ」
「えっと…どうぞ?」
「ありがとう」
疑問形で首を傾げた妹の可愛さにほっこりしつつ、誰も来ないであろう空き教室のうちのひとつに入った。
「そこに座れ」
大人しく座った白露の頬に手をそえ、ひとまず水で濡らしておいた布で頬を拭った。
《…気づかなかった》
「何があったんだ?」
白露が怪我をするのは珍しい。
怪異の相手をしてもほぼかすり傷だけですんでいるのに、頬から出血していた。
《死霊を見かけた。見ない顔だったから声をかけようとしたが、穢にあてられたようだ》
「動けなくなるくらいだったってことか?」
《おそらく。…あれだけの邪気をあびせられたら、流石のおまえでもどうなるか分からないぞ》
白露に忠告されることはよくあるが、これだけ真剣なトーンで話すということはそれだけ危険な相手なのだろう。
「肝に銘じておく」
白露の手当てをすませ、一緒にみんなのところまでゆっくり歩く。
…今夜の見回りは忙しくなりそうだ。
「う、うん!」
恒例になった夏合宿、誰もいない旧校舎を自由に使わせてもらっている。
穂乃の水鉄砲の命中率を上げるための特訓につきあいながら、自分の鍛錬も欠かさずおこなっていた。
「岡副、もう少し霊力を腕に集中させられるか?」
「腕に…やってみます」
陽向は新しい武器を使いこなせるようにするため、瞬はまだ本調子ではないため桜良と旧校舎の掃除をしている。
「少し休憩にしよう」
「ああ……」
倒れこんだ陽向にスポーツ飲料を持っていく桜良と、先生に塩飴を手渡す瞬。
「…誰か白露を見てないか?」
「そういえば、見回りしてくるって出ていったきりですね」
「折原妹、呼び出してみろ」
「どうやるんですか?」
「自分の近くにくる白露を強くイメージすればいい」
「イメージ…」
穂乃は目を閉じて言われたとおり想像したらしい。
一瞬で白露が目の前に現れた。
《…何かあったのか?》
「すごい、白露が本当に来た!」
《何の話だ》
「…説明してなかったのか」
先生の話によると、契約者は式神を呼び出すことができるらしい。
どれだけ離れていようが、呼び出す思いが呼び鈴のような役割を果たすそうだ。
《……そんなこともあったな》
嫌な思い出があるのか、それ以上話したくないようだった。
俯いた白露を穂乃は心配そうに見つめる。
「…嫌だった?」
《特に不快感はない。何かあったのかと思っただけだ》
「ごめんね。どこに行ったか分からないから、呼びかけてみようと思って…。あと、これ飲んで」
《…もらおう》
麦茶を飲む白露の頬には見覚えのない傷がある。
「白露、ちょっといいか?」
《別にかまわないが…》
「穂乃、白露を借りるよ」
「えっと…どうぞ?」
「ありがとう」
疑問形で首を傾げた妹の可愛さにほっこりしつつ、誰も来ないであろう空き教室のうちのひとつに入った。
「そこに座れ」
大人しく座った白露の頬に手をそえ、ひとまず水で濡らしておいた布で頬を拭った。
《…気づかなかった》
「何があったんだ?」
白露が怪我をするのは珍しい。
怪異の相手をしてもほぼかすり傷だけですんでいるのに、頬から出血していた。
《死霊を見かけた。見ない顔だったから声をかけようとしたが、穢にあてられたようだ》
「動けなくなるくらいだったってことか?」
《おそらく。…あれだけの邪気をあびせられたら、流石のおまえでもどうなるか分からないぞ》
白露に忠告されることはよくあるが、これだけ真剣なトーンで話すということはそれだけ危険な相手なのだろう。
「肝に銘じておく」
白露の手当てをすませ、一緒にみんなのところまでゆっくり歩く。
…今夜の見回りは忙しくなりそうだ。
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